7話 今夜ひみつのバーで 第2節 -台湾

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第1話 エピローグ

 

  

——————————-

―こうして海外で日本人が騙されていくんだな

 半ば自棄になりながら、ぼくはママの誘いに乗っていた。

「お店は若い子達に任せるから。さあ行くわよ」

 そうしてぼくとママは扉を開け、夜のネオンに背を向けながら歩き出した。

 歩いてすぐだと言う駐車場に向かう途中、何人かの酔客が肩を組んで、楽しげに歩いている光景を目の端に捕らえたが、彼らが日本語で喋っているのを聞いて、何となく自分のしていることを咎められているような、灰色の気分になった。

 駐車場に着くとそこには、超がつくほどではないが、十分に高級といわれるセダンが停まっていた。高揚を味わうとともに、その後ろを狼狽が追いかけてきているようだった。

「台湾でドライブって言うとどこに行くんですか?」

 車が夜の街道に滑り出すや否や、ぼくはそう聞いていた。

「じきにわかるわ。そんなに遠くはないから」
「それよりちょっといくつか寄り道していかなきゃならないの。悪いけど付き合ってくれる?」
「大丈夫ですよ」

 なにか色々と質問するのが面倒になったぼくは、質問するのをやめた。
 
 程なくして車はガソリンスタンドに着いたようだった。ここでぼくは一つ大胆な行動に出るため、トイレに行くことにした。
 
 ドライブに誘われてからこの方、その場を楽しみたくても、どこか不安が頭にもたげてくる、いわば給料日前の宴会のような気分をずっと味わっていたのだが、とうとうそんな中途半端な気持ちにも、別れを告げたくなっていた。
 
 とはいっても、もちろん、「身ぐるみを剥がされても構いやしない」と完全に身を投げてしまうことも叶わなかった臆病なぼくは、なんと少量の現金をポケットに残して、大部分の現金とクレジットカードを、靴の中敷きの裏に忍ばせることにしたのだ。
 
 これで安心してドライブを楽しめる、と思ったのも束の間、車に戻ってママの顔を見た時から、今度は罪悪感と自己嫌悪がぼくを襲ってきた。

―人を疑うというのはつくづく罪なことだ

 そんなぼくの背徳行為に気付いたわけはないと思うのだが、何かを見透かすような目で見られている気がした。

 するとママがおもむろに携帯電話を取り出し、理解できない言語で誰かと会話を始めた。どうやら友達と会話をしているようだった。

 5分も喋らないうちに電話を切った後、ぼくにこう告げた。

「今から友達と待ち合わせるから、一緒にドライブしましょう」
「え?友達?誰ですか?」

 すぐさまぼくはそう聞いていた。

「あなたが知ってるわけないじゃない。気にしないでいいのよ」

 微笑みを見せながらそう言ったが、さすがに不安の翳を隠せなくなっている自分に気付いた。そんな不安な表情を浮かべたぼくを、どこかママは楽しんでいるようだった。

「あなた日本では大学生って言ったわね。なにを勉強しているの?」
「医学部に通っています」
「あら、すごいじゃない。ひょっとして、その鼻は自分で手術したわけ?」
「え?どういうことですか」
「そんな高い鼻、日本人では滅多にいないでしょう。手術して高くしたに決まってるわ」
「ひどいなぁ」

 それまではぼくの奥の何かを、見通すような目をしていたママだったが、この時いたずらっぽく笑ってみせた顔は、しっかりぼくそのものを見てくれていたような気がした。

 そんな会話をしていると、車は大きな街道から暗く狭い小路へと、苦しげにその頭を差し込んでいった。例の友達との待ち合わせ場所が近いようだった。

 再びママが電話をかけて呼び出し、そこから200メートルほど車を走らせたところで停車した。

―誰が来るんだろう。ここで怖い人が来て、試合終了かもしれないな

 一言も喋らずに待っていると、そこに小柄な女性が姿を現し、後部座席へと体を滑り込ませた。

「彼女、仲の良い友達なの。英語の勉強中らしいから、英語で会話してあげてね。」

 しかし日本語は喋れず、英語もあまり得意でないという彼女とは、これといって会話をすることが出来なかった。もしかしたら、言葉の問題以前に、引っ込み思案な性格だったのかもしれない。

「これで寄り道は済んだから、目的地に向かいましょうね」

 ママはそう言うと、一段と速いスピードで車を走らせた。

 

 

 何分経っただろうか。他愛もない話を続けているうちに、一時間ほど経っていたかもしれない。

車は何度かUターンを繰り返し、なおも走り続けていた。

―いよいよ本当に騙されたのかもしれないな。いくらなんでも走り方がおかしい

無駄とは思いつつも、ぼくは再度行き先を訪ねた。

「結構遠いみたいですけど、どこに向かってるんですか?」
「実はいま、山に向かってるわ」
「山?山に向かってるんですか?」

 その瞬間、靴に隠した貴重品を踏む足の裏が、じっとりと湿っていくのが分かった。

 ―もう、いい。なるようになってしまえ。ちょっとくらいトラブルがあってこその、世界旅行じゃないか

 その瞬間、ぼくは肝を据えることにした。

「行き先は決まってるんだけど、道を間違えてしまったみたいなの」

 ママはそう言うと、例の友達に何か早口で喋りかけていた。携帯電話を使った道案内を頼んだようで、程なくして機械音声による、ナビゲーションが始まった。

 ナビゲーションに従おうとするものの、やはり何度かUターンをしながら車を走らせ、ようやく目的地が近づいてきたようだった。

 道路の幅が徐々に狭くなるのに比例して、傾斜が出てきたようだ。

―本当に山の登坂路を行ってるんだな

 

 

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7話 今夜ひみつのバーで 第3節 -台湾

 

 

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