急性呼吸不全(INTENSIVIST VOL.5NO.4)の重要項目まとめ

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目次

1. 【低酸素血症と高二酸化炭素血症】
2. 【呼吸不全の原因:気道/肺胞/呼吸筋/血管】
3. 【COPD急性増悪】
4. 【特発性肺線維症の急性増悪 診断と治療】
5. 【その他のびまん性肺疾患】
6. 【神経筋疾患】

 

 

 

その他の巻についてもこちらをご覧ください↓

INTENSIVIST 重要項目まとめ

 

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【1.低酸素血症と高二酸化炭素血症】


https://www.jspm.ne.jp/guidelines/respira/2016/pdf/02_02.pdf

a. 低酸素血症の4つの原因
・呼吸不全はPaO2<60cmH2Oの低酸素血症と定義される。
[①V/Qミスマッチ]
・換気血流比不均等とも言う
・換気Vと血流Qのバランスが崩れた状態のことを言う
・血流Vに対して換気Qが少ない状態(A)と、換気Qに対して血流Vが少ない状態(C)の二つが考えられる。

(A) low V/Q
心不全、肺胞出血、肺炎、ARDSなどにより、肺胞内が水・血液・膿瘍などで埋められた状態で、血流に対して換気が追い付かない状態。

(B) high V/Q
肺塞栓症や肺気腫などにより血流が途絶えた状態で、換気に対して血流が追い付かない状態。

 

[②シャント]
・上記のlow V/Qが進行し、肺胞の含気がなくなり換気が全く行われなくなってしまった状態。low V/Qとは酸素化能に大きな差があることから、独立した病態としてとらえる。無気肺や重症肺炎がこれにあたる。
→PEEPをかけて肺胞のリクルートメントを行うことが重要となる。
・また、上記に加え、卵円孔開大や肺動静脈奇形など解剖学的にシャントが存在する場合も含んでいる。
・いくら高濃度酸素を投与しても、血中にわずかに酸素が溶け込むだけで、実際に換気が行われないため酸素化の改善を得づらい。

PEEPについて
ⅰ. PEEPの利益
① リクルートメント
・虚脱した肺胞をリクルートメント(膨らませる)することによって肺内シャントを減らし、酸素化を改善する。また、呼気終末時にも肺胞を虚脱させないことによって、虚脱⇔膨張に伴う肺障害を軽減することができる。
・ただし、過剰なPEEPの上昇は肺胞を過伸展させVALIを増やしてしまう。
・腹部コンパートメント症候群など、肺底部が横隔膜により強く圧迫されている状況では、いくらPEEPをかけても、正常肺が引き延ばされるだけで、無気肺がリクルートメントされないことがある。
② 左室後負荷減少
・PEEPの左室収縮能自体への影響ははっきりしないが、PEEPによる胸腔内圧の上昇は経壁圧を減少させ、結果的に左室後負荷を減少させる。

 

ⅱ. PEEPの害
① 静脈灌流量低下
・胸腔内圧の上昇により静脈灌流量が低下する。
・特に腹部コンパートメント症候群などにより、胸膜圧が上昇している患者においては、PEEPを上げていくことによって、静脈灌流量が減り、心拍出量が低下することから、結果的に酸素化が低下するとう状況が起きうる。
→その時にはPEEPを下げる。
・循環血症量過多の患者においては左室前負荷の減少により心拍出量を増加させ得る

② 肺血管抵抗上昇
PEEPは肺胞血管を狭小化することから、肺血管抵抗を上昇させうる。
ただし、肺胞虚脱の状態において、適切なPEEPでリクルートメントを行うことにより低酸素血症の改善→肺血管抵抗の低下という流れもある
→つまり、適切なPEEPを設定することが重要

肺血管抵抗が上昇した場合には、右室の後負荷増大により心室中隔偏位を起こす可能性がある。

 

[③拡散障害]
典型的には間質性肺炎の時などのように、肺胞間質が分厚くなり、拡散障害により換気が行いづらくなる病態を言う。

 

[④肺胞低換気]
そもそも肺胞内に空気が入ってこない状態をいう。
→中枢神経障害、神経筋疾患やオピオイドによる呼吸抑制や、物理的に気道閉塞した場合、呼吸筋疲労を起こした場合などが含まれる。
→全ての呼吸不全は最終的には呼吸筋疲労から肺胞低換気に辿り着く可能性がある。

 

b. 高二酸化炭素血症の原因
・高二酸化炭素血症は、二酸化炭素の排出能の限界が二酸化炭素の産生量を下回った時に生じる。
・主に②シャント、④肺胞低換気の病態で生じる。
・V/Qミスマッチなど、換気量を増やせば換気が進む病態で、かつ代償する呼吸筋の予備能のある患者においては、高二酸化炭素血症を呈することは少ない。

・人工呼吸器管理下で、急激に分時換気量が増加し、かつpCO2が正常の場合には
①発熱や過剰栄養などにより、二酸化炭素産生が亢進している
②肺塞栓、肺水腫、ARDSなどにより、二酸化炭素排出能の低下が起こっている可能性がある。つまり、V/Q不均等がシャントの方の病態へ傾きつつあるということを指す。

 

 

 

 

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【2.呼吸不全の原因:気道/肺胞/呼吸筋/血管】

・急性呼吸不全の分類の方法はさまざまだが、解剖学的には、気道/肺胞/呼吸筋/血管の4つの部位に原因が分類され得る。

①気道:喘息、COPD
②肺胞:ARDS
③呼吸筋:ギランバレー症候群や重症筋無力症などの神経筋疾患。
④血管:肺塞栓症
などが挙げられる。

ここでは、①②について詳しく述べる。

 

①気道
a. 気管支喘息
参考:
https://www.gifu.med.or.jp/zensoku_file/manual_new.pdf
http://www.kameda.com/pr/pulmonary_medicine/post_5.html

<診断まで>
○バイタルサイン
・体温、血圧、意識レベル、SpO2、呼吸数、体温
・SpO2が90以下の場合は迷わず血ガスチェックし、CO2貯留に注意しながら酸素吸入を開始。
・CO2の貯留が見られても、低酸素血症を改善させることの方が生命に直結するため、むやみに酸素投与を中止しない。

○身体所見
経静脈怒張、両下肢浮腫、胸部Wheezes、呼吸音左右差、呼吸音減弱

○鑑別疾患
心不全、気胸、縦郭気腫、肺炎、腫瘍性病変、慢性肺疾患の急性増悪、気道狭窄・異物
→特に心不全との鑑別が困難である場合には、利尿剤/血管拡張薬とステロイドによる治療の療法を同時に開始してよい。

○病歴
いつから、発作歴、最終発作、Onset
きっかけ(感冒や掃除は?)
アスピリン喘息・・・鎮痛剤や感冒薬は?
喘息既往あれば、詳しく。内服、通院、治療内容、入院歴、挿管歴
当日既にやった処置
喫煙歴
アレルギー性疾患(アトピー、鼻炎、花粉、副鼻腔炎)
ペット
最近の発作状況

<重症度分類>

 

<治療>
●中等度発作
walk-in症例、横になると苦しいため横になれないと訴える程度まで。
下記治療。

○β2ネブライザー・・・心拍数<130bpmを維持しつつ、20-30分毎に繰り返す
・メプチン 0.3ml + インタール2ml
・ベネトリン 0.3ml + ビソルボン0.6ml + 蒸留水 0.6ml

○ステロイド
・アスピリン喘息なし→メチルプレドニゾロン125mg + 生食50mL
・アスピリン喘息あり→リンデロン 8mg + 生食50mL
→ステロイド点滴を2回まで繰り返し、改善があれば帰宅とし、改善なければ入院を考慮する。
→入院後は維持量として、メチルプレドニゾロン60-80mg/dayの1回もしくは2分割投与を5-14日間継続する。(用量はIV=POとして良い)
→全身投与の終了までには吸入ステロイドを導入する。

○0.1%エピネフリン(ボスミン)皮下注
→ステロイド不応例で処置中も増悪をしていく場合
・ボスミン皮下注0.3ml or 小児では0.01mg/kg
※!※虚血性心疾患、緑内障、甲状腺機能亢進症がないことを確認※!※

●高度~重篤発作時
体動困難、会話困難な場合。

○ステロイド
中等症と同様に、アスピリン喘息を確認し、投与

○ボスミン皮下注
中等症同様に禁忌は確認。
モニターにて心拍数130bpm以下になっているか確認しながら、20-30分ごとに改善あるまで繰り返す。

○呼吸管理
意識状態の改善なく、PaCO2上昇を伴う場合は、挿管やNPPV装着を考慮する。

・喘息発作における挿管基準
1.呼吸停止
2.意識障害
3.明らかな呼吸筋病弊
4.急激なPaCO2上昇(PaCO2>60mmHg or 1時間に5mmHg以上の上昇)
5.最大限の酸素投与下でPaO2<50mmHg

 

b. COPD
・COPDの急性増悪の危険因子で一番関連性が高いのは、急性増悪の既往である。
・その他、加齢、咳嗽/喀痰、抗菌薬やステロイド治療歴、GERD、虚血性心疾患、慢性心不全、糖尿病などが挙げられる。
(参考:http://qq8oji.tokyo-med.ac.jp/pg-report/4299)

<原因>
・感染
・肺炎
・有害大気への曝露
・気胸
・心不全
・肺塞栓
→感染徴候がない場合には、気胸・心不全・肺塞栓を考慮する。

 

<治療>
A:Antibiotics
B:β2刺激薬
C:Corticosteroid
の三本立てで行う。

・酸素投与については、高CO血症に留意しつつSpO2> 88-90%程度を目指す。

〇抗菌薬投与
CTRX2g/dayの投与を行う

〇β2刺激薬
心拍数<130bpmを維持しつつ、20-30分毎に繰り返す
・メプチン 0.3ml + インタール2ml
・ベネトリン 0.3ml + ビソルボン0.6ml + 蒸留水 0.6ml

〇ステロイド
・急性期にはまずメチルプレドニゾロン125mg + 生食50mLを投与
・その後はプレドニゾロン40mg(静注or経口)を10-14日間の投与が推奨されている。(2011年GOLD global strategy)
・ただし、重症度によっては、5日間の投与のみでも180日間の再発率において、14日間投与群に比べて非劣性である可能性がある。
(http://hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/reduce.pdf)

 

[②肺胞]
・ARDS
・肺炎などの感染症、溺水などの直接損傷が原因となる。
・敗血症、多発外傷、膵炎、大量輸血、薬物などが間接損傷の原因となる。

・ARDSの診断基準

・原疾患の同定と治療を優先しつつ、人工呼吸器管理となった場合には、肺保護換気を心掛ける。
→詳細は【人工呼吸器関連肺障害】を参照。

 

 

 

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【3.COPD急性増悪】
・さらっと流したいかたはこちらを参照
・以下では主にエビデンスに基づいた治療戦略について述べる。

[原因]
①感染性
・全体の60-80%を占める。
・細菌感染が50%(インフルエンザ桿菌、肺炎球菌、モレクセラ)
・ウイルスが30%である。
・細菌/ウイルスの混合感染もある
・非感染性の増悪よりも肺機能の低下が大きく、入院期間が長いとされる。

②非感染性
→原因となり得るのと同時に、鑑別するべき疾患でもあることに注意する

・心不全
・肺塞栓
・呼吸器以外の感染症
・気胸
・肺炎
・その他、大気汚染/環境因子も誘因となる

 

[病態]
・気道炎症や浮腫の増強
・全身性炎症の結果もたらされる呼気の気流閉塞
→V/Qミスマッチにつながる
→呼吸努力の増加に伴う酸素消費量の増加
→低酸素血症のさらなる増悪

・COPD患者では呼気時の気道抵抗の増加、肺収縮力の低下により肺内に空気のとらえこみが起き、過膨張となる。
・肺の残気量が増えることによって、最大吸気量が減少する。

・二酸化炭素の貯留は、最大吸気量の減少による肺胞低換気に伴い、換気血流不均等が悪化することにより生じる。
→酸素飽和度は90%程度でpermissiveに管理する。

 

[治療]
a. 気管支拡張薬
・急性増悪時にはSABAが第一選択。
・効果が乏しい場合には併用を考慮
→安定期においては併用が推奨される。

・急性増悪時、吸入薬の使用例
心拍数<130bpmを維持しつつ、1時間ごとに繰り返す
・メプチン 0.3ml + インタール2ml
・ベネトリン 0.3ml + ビソルボン0.6ml + 蒸留水 0.6ml
・適宜SAMA(短時間作用型抗コリン薬)の吸入も併用する。

 

b. ステロイド
・酸素化、肺機能、自覚症状を改善させ、治療失敗率を低下させ、入院期間を短縮させる。急性増悪の再発率を減少させる。
・超急性期にメチルプレドニゾロンの静注から治療をはじめ、その後経口内服が可能なタイミングで同量のプレドニン内服へ変更とするのが一般的な治療法。
(ステロイド投与量は静注=内服と考えてよい)
・投与量としては40mg/dayあるいは0.5mg/kg/dayなどの基準がある。
・投与期間は7-14日間とガイドライン上も幅があるが、7日程度でも長期間治療群と比べ差がないことが分かっており、さらには5日間でも良いとする論文もある。
(http://hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/reduce.pdf)

・漸減/中止に関する提案
・少量かつ短期間の投与の場合には漸減は必要ないと考える。

①メチルプレドニゾロン0.5mg/kgを6-12時間ごとに経静脈投与
②改善傾向あり or 4日目のどちらか早いほうから0.5mg/kgを12-24時間ごとに減量し、3日間投与
③その後、0.25mg~0.5mg/kgを1日1回で3日間投与し終了する。
c. 抗菌薬
・救急の現場では細菌性か非細菌性かの鑑別が困難な場合が多い
・膿性痰の有無や量、喀痰Gram染色が鑑別の手助けとなるが、COPD患者の喀痰から菌が検出されることが多いという実際もある。
・培養で検出された菌が常在菌であるか、起因菌であるかの判断も困難である。
(追記)ただし、黄色ブドウ球菌は呼吸器感染症の原因菌にはなりづらい
(MRSAが生えたとしても起因菌の可能性はかなり低い)

・投与の実際として、重症患者では有用性が認められているが、軽症例では有効性はないとされている。
・投与期間、治療反応例では5-7日間程度で良いと考えられる。

・グラム染色の有用性
・肺炎球菌は培養陰性でもあり得る
→グラム染色で双球菌を特定することが大事

・院内感染症の培養は、非起因菌を増幅して起因菌に見せかけてしまう
→グラム染色は、大量に繁殖している菌のそのままの数を検出することができる。
→原則としては、一つの感染一つの臓器に一つの細菌が大量に繁殖
→培養のもつ偽陰性・偽陽性をカバーすることが出来る。

 

d. NPPV
・NPPVの導入により、有効換気量の上昇、呼吸筋の酸素消費量の減少などにより、死亡率、挿管の必要性、治療失敗率は有意に改善した。

・NPPVの適応基準については下記

 

・初期設定については
①MODE: S/Tモード
②EPAP(PEEP) : 4cmH2O
③IPAP :8~10cmH2O
④FiO2: 0.5程度から
⑤呼吸数: 16回程度から

・IPAPは10分ごとに、5cmH2Oずつ、治療効果がでるまで増加させる。
・EPAPは基本的に5cmH2Oから動かさない
・SpO2は90%を目安に適宜調節行う。

 

 

 

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【4.特発性肺線維症の急性増悪 診断と治療】
・原因不明である、特発性間質性肺炎(IIP)のうち、病理組織学的に通常型間質性肺炎(UIP)のパターンをとるものを特発性間質性肺炎(IPF)と呼ぶ。
・IIPの中ではIPFの頻度が一番高い。
・IPFの死亡原因のうち約40%が急性増悪によるものである。

[診断基準]

 

[ステロイド療法と肺血栓塞栓症]
・IPFの治療にステロイドが使われることは周知の事実であるが、肺血栓塞栓症の発症に関わることが知られている。
・プレドニン5mg/day以下であっても、リスクは1.8倍
・プレドニン5-20mg/dayでは3.4倍
・プレドニン30mg/day以上では9.6倍となる
→これらは内服開始後での発症リスクが高い
→新たなすりガラス影が目立たない急性発症の呼吸不全に対しては、肺塞栓の可能性を
念頭におく必要がある。

 

[鑑別疾患]
・ARDS
・膠原病に伴う(特発性ではない)急速進行性間質性肺炎
・びまん性肺胞出血
(参考:http://www.kameda.com/pr/pulmonary_medicine/post_17.html)
・急性好酸球性肺炎

 

[治療]
a. ステロイド
・mPSL(メチルプレドニゾロン) 1000mg/day を3日間によるステロイドパルス療法の実施後、1mg/kg/dayのmPSLまたはPSLを4週間継続した後に、漸減する。
・ステロイドパルス療法は、症状の安定が得られるまで、1週間おきに最大4クール程度繰り返すという方法がある。

 

b.好中球エラスターゼ阻害剤
・商品名シベレスタット。
・諸外国ガイドライン上の推奨はない。
・本邦ではARDSでの予後改善やICU滞在日数の短縮について報告がある。

http://www.maruishi-pharm.co.jp/med2/files/item/288/other/attach.pdf?1543541488

 

c. シクロスポリン
・2-3mg/kg/dayを分2で開始
・血中トラフ値(TDM)を80-140ng/mLに調節する

・諸外国ガイドラインでの推奨はない
・本邦ではステロイドに併用する免疫抑制剤として、シクロスポリンの効果が報告されている。
・血中濃度を調節しながら厳密に投与する必要がある。
・腎機能障害や血糖値上昇に注意。
・脂質異常、糖尿病では濃度上昇が得づらい。

 

d. 抗凝固療法
・びまん性肺胞障害に伴う微小血栓塞栓やさらに進行したDICに対しては抗凝固療法の施行を検討する。
・ATⅢ > 70%であればヘパリン投与による抗凝固療法で良い
・またDICにおいてはトロンボモジュリン製剤(商品名:リコモジュリン)の有用性が報告されている。
(DICの治療について、ここでは詳しくは述べない)

 

e. PMX-DHP療法
・直接血液灌流法によって血中エンドトキシンを選択的に吸着除去する治療法
・敗血症やARDSに対して有用性が報告されている。
(追記):ここ最近のRCTではその敗血症に対する有用性が否定されており、ガイドラインでも「使用しないことを弱く推奨」されている。

以下引用
もし、PMX-DHPを使用するなら、非常に限定的にはなりますが、好中球減少がなく(活性化好中球を吸着するため)、腹腔内感染症による敗血症性ショックで、輸液、カテコラミン、バソプレシン、ステロイドを使用しても血圧がどうしても上がらないケース、ということになるでしょうか。
https://www.m3.com/open/clinical/news/article/637249/

 

 

 

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【5.その他のびまん性肺疾患】
・急性期の間質性肺炎はステロイドパルス療法を行えばよいので細かな鑑別をする必要がないと考え方は乱暴である。
・ARDSのおいてはステロイド投与のエビデンスがしっかりとしていない以上、びまん性肺疾患との鑑別をしっかりと考える必要がある。
・心不全や感染症以外で頻度の高い疾患や知っておくと役立つ疾患をいくつか取り上げる。

 

[a. 急性好酸球性肺炎]
・末梢血の好酸球増多の有無には関わらず、肺実質に好酸球が浸潤する疾患の総称である。
・生来健康の若年者で急性発症のびまん性肺疾患をみたら、急性好酸球性肺炎を第一に疑う。
・最近の喫煙開始という病歴に特徴づけられるが、その他にも粉塵や花火の煙など、複数の吸入抗原が原因として挙げられる。

・身体所見
他臓器に異常が乏しくfine cracklesの聴取を認める。

・検査所見
初期には、好中球増多を伴う白血球増多を認める。好酸球が増多するのはそれ以後である。

・診断
BALで感染症を除外しつつ、好酸球分画を調べるのが確実であるが、実際に重篤な呼吸不全を合併している症例では疑った時点で臨床的診断のもとステロイドを開始することもある。

 

・治療
2週間のステロイド療法を施行する。

<重篤例>
①ステロイドパルス or ハーフパルス療法を施行
②その後、プレドニン60mg 4日間、40mg 3日間、20mg 2日間、10mg 2日間で終了

<非重篤例>
プレドニン60mg 7日間、40mg 3日間、20mg 2日間、10mg 2日間で終了

 

[b. 過敏性肺炎]
(参考:http://www.kameda.com/pr/pulmonary_medicine/post_88.html)
・原因物質を反復吸入して感作される外因性アレルギー性病態をとる
・日本では、高温多湿の木造住宅で夏に発症しやすい夏型過敏性肺炎や、鳥の飼育に関連したトリ関連過敏性肺炎が多い
・しかし上記はいずれも亜急性の経過をたどることから、ICU入室症例では少ないお思われる。
・ICU入室症例では、急性に大量に抗原曝露が起きた例が多い。
・急性型では抗原暴露から4-6時間で乾性咳嗽、発熱、呼吸困難が出現する。胸部聴診では両肺野にfine cracklesを聴取する。
・その例として、換気装置肺炎や塗装業などの職業肺炎、浴槽からMACのエアロゾルを吸入して起こるhot tub lungなどが挙げられる。
・IPFの急性増悪同様にびまん性肺胞障害パターンをとり予後不良であることを認識する。

・診断

・治療
ステロイドパルス療法 + 維持療法により行う。

 

[c. 薬剤性間質性肺炎]
一見原因がはっきりしており、診断が容易かと思われるが、以下の理由が診断を難しくさせうる。
①高齢者のpolypharmacy
②自己申告されないサプリメント類
③長期投与されており、今まで問題のなかった薬物であっても、原因薬になるという認識不足
④肺がんに対する化学療法中の呼吸困難など、原病の悪化なのか薬剤性間質性肺炎なのか、鑑別が困難。
⑤さらに、肺がんや関節リウマチなど易感染性を呈している患者においては感染症を鑑別する必要もある。

そしてこれらに対する処置としては、
①被疑薬をすぐに中止する
②日和見感染が否定されるまでは、感染症の治療も同時に開始する。
③びまんせい肺胞障害を呈する患者にたいしては、ステロイドパルス療法を開始する。

 

 

 

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【6.神経筋疾患】
・神経筋疾患の可能性を疑う急性呼吸不全を呈する症例に遭遇した時は以下の4点に着目して診療を開始する。

①呼吸に関わる筋肉の確認
②神経筋疾患は急性の経過か慢性の経過か
③発症のスピード(時間単位、日単位、週単位)
④疾患の障害部位は脳/脊髄か、運動ニューロンか、末梢神経か、神経筋接合部か、筋肉そのものか。

 

[①呼吸に関わる筋肉]
a. 吸気
横隔膜、外肋間筋
→換気量に関連し、CO2の増加に関与。
→奇異呼吸に気づくことが大切である
・左右対称な動きでない
・胸部と腹部の動きが同調していない
・胸郭の一部が他と逆の動きをする
→横隔神経麻痺、多発肋骨骨折、呼吸筋疲労、血胸、気胸などで生じる。

b. 呼気
内肋間筋、腹筋
→咳嗽や喀痰の排出に関わる

c. 併存する心疾患、呼吸器疾患の有無
慢性の神経筋疾患であっても、依存症が急性呼吸不全への引き金となる。
→上気道感染、肺炎など

 

[②急性or慢性 ]
・神経筋疾患には様々な原疾患があるが、
急性:ギランバレー、重症筋無力症、抗コリンエステラーゼ薬過剰投与
慢性:ALS筋萎縮性側索硬化症

 

[③発症のスピード]
時間~日単位:GBSギランバレー症候群、ボツリヌス症
日~月単位:炎症性筋疾患、重症筋無力症

 

[④障害部位]

・ALS:上位/下位ニューロンどちらも障害される。
→緩徐に進行する上肢発症の筋力低下、筋萎縮、舌の萎縮、構音障害/嚥下障害
→感覚障害、小脳失調症状は認めない。知能障害もなし。
・GBS:下位運動ニューロン、末梢神経障害
→75%で3日~6週間前に上気道炎症状や胃腸炎症状などの先行感染症状を呈する。
→進行性の左右対称な四肢筋力低下。深部腱反射消失。
→顔面神経麻痺も呈する。

・重症筋無力症:神経筋接合部
→アセチルコリンレセプターに対する自己抗体が原因となる自己免疫疾患
→感染、疲労、術後や禁忌薬投与(麻酔薬、精神安定薬、筋弛緩薬、抗コリン薬過剰投与)などにより、クリーゼとなり急激に呼吸困難が進行する。
→症状は日内変動のある易疲労性、筋力低下。疼痛はない。
→夕方の眼瞼下垂、複視。嚥下障害/構音障害
→感覚障害はない

 

<挿管を考慮する症例>
以下の例では人工呼吸器管理を考慮する
①呼吸困難
②意識レベル低下
③呼吸性アシドーシス(pH45mmHg)

以下の例は絶対適応
①意識レベルの低下
②呼吸もしくは心停止
③ショック
④重度の不整脈
⑤血液ガス所見の増悪
⑥球麻痺による誤嚥
(球麻痺:Ⅸ~Ⅻ神経麻痺による、構音障害/嚥下障害)

 

 

川良健二

 

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