東大SPHの前期が終わったので、全授業の感想書くよ

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こんにちは、次郎作こと布施田泰之です。

東大の公衆衛生学の大学院(東大SPH)に入学して早4ヶ月が経ちました。

ついに、前期(S1ターム+S2ターム)が終わったので、

・東大SPHを受験するか迷っている人のため

・東大SPHに入学が決まったけど、どの授業をとるべきか迷っている人のため

に、記事を書こうと思います。

 

僕が参加した授業は全て感想書くのでお楽しみに!

まずは、前期の時間割からです。

 

黒の太文字が履修した授業赤の太文字が聴講した授業(聞いていただけで単位は取得せず)です。

S1ターム(4/1~6/3)

S2ターム(6/4~7/30)

こうみると意外と詰まってますね笑

東大では、前期はS1タームとS2ターム、後期はA1タームとA2タームの4つに分かれています。

一応、時間配分は以下の通りです。

1限目:8:30-10:15
2限目:10:25-12:10
3限目:13:00-14:45
4限目:14:55-16:40
5限目:16:50-18:35

 

では、早速授業の感想を書いていこうと思います。

分かりやすいように、オススメ度を5段階で評価しておきました!

 

月曜1-2限目 “健康危機管理学”

オススメ度:★★★★☆

感想:新型コロナウイルスが流行している今にぴったりの講義でした。COVID-19に最前線で対応してきた先生方の講義も多く、パンデミックやサーベイランスなどの内容がありました。

個人的には、最後の授業で行った「Oswego教会の夕食会で発生した胃腸炎のアウトブレイク」という実際にあった事例をもとにしたケーススタディがとても面白かったです。

参加した生徒で、夕食会の参加者に聞きたいことや調べるべきことなどを列挙して、その後何を食べた人の中に症状が出た人が多いかを計算して、

原因となった食事内容を同定し、

次回同じことが起こらないようにどう言った対策ができるかを話し合いました。

とても興味深かったです。

 

月曜3限目 “法医学

オススメ度:★★★☆☆

感想:興味があるかは人次第な気がするのでオススメ度3にしましたが、僕としてはとても面白かったです。

医学生時代に受けた法医学の授業とは違い、死後反応とか創の定義などの話はほぼなく、

世界の法医学システムと比べて、日本の法医学システムのおかしな点をあらわにしてくれました。

特に、死因究明制度は、殺人などの犯罪を見逃さないことによって、

社会の安全に直結する公衆衛生と繋がる分野だと思い知りました。

自分も医師として、しっかり異状死の対応ができていなかったと反省しました。

東日本大震災などの災害時にも、遺体の確認などで法医学者は不可欠で、日本の人材不足の現状はとても危機感のある状況なのだと思いました。

 

月曜4-5限目 “公共健康医学特論

オススメ度:★★★★★

感想:せっかく東大のSPHに入ったのなら、ぜひ授業を聞いた方がいいと思います。

“Protecting Health, Saving Lives, Millions at Time”

(健康を守り、命を救おう、たくさんの人を一度に)

上記のような言葉を引用しながら公衆衛生学はなんたるやを語ってくださったり、

東大SPHの教授陣が1コマ1人ずつ講義をしていってくださいます。

各研究室の先生が、自分の専門領域から面白い話をピックアップして話してくださるので、とても聞いていて楽しかったです。

元参議院議員の方からの「政治と公衆衛生政策」の授業も、聞けてよかったなと思いました。

自分では資料を残せてなかったのですが、橋本英樹先生の授業で、戦後の日本の保健所業務に関する動画を見て、

「さて、公衆衛生とはなんだろう?」

みたいなことを同期とディスカッションした授業は印象的でした。

東大SPHに入学したら、ぜひオススメです。

 

火曜1-2限目 “保健人材育成学

オススメ度:★★★★☆

感想:最初僕は一回授業聞いてみるか、くらいのノリで授業を受け始めたのですが、とても面白くて履修を決めた授業です。

教育・指導・人材育成の考え方や学習カリキュラムの作成やその評価方法、などについて学びました。

授業中に隣の人と話し合うとか意味あるのかなぁと思っていたのですが、

Think-Pair-Shareと言って、自分自身で考える、2-3人で話し合う、その後全体で共有する、という一連の作業をするだけで自分の意見がまとまったり他の人の意見を取り入れることができて、実は学習効率をあげるいいテクニックだったのだなと思いました。

講義技法まで学んだ後に、授業をとっていた9人くらいで自分の興味があることに関してプレゼンしたのですが、同期の皆さんもとても個性豊かでそのプレゼンを聞いているだけでも楽しかったです。

これまで、どのように人に教えるか、どのように目標を設定して評価していくか、など考えたことがなかったので、とても勉強になる授業でした。

 

火曜3-4限目 “医療コミュニケーション学“ (聴講)

オススメ度:★★★★☆

感想:課題が大変そうだったので聴講にしてしまいましたが、授業内容は面白かったです。

医療従事者の方は、今回の新型コロナウイルスの大流行で実感したと思うのですが、「医療や健康の情報を正しく伝えること」「正しい情報をもとに、適切に行動してもらうこと」はとても難しいことです。

そういったヘルスコミュニケーションについての授業でした。

特に、ものすごくキョーレツに覚えているのは奥原先生の授業ですね!

どういった伝え方だと人にものが伝わるのかを、レクチャーしてくださいました。

1コマかけて話されていた内容がより詳しく本にまとまってます!

ただ、動画なども使いながらの授業の面白さには、本はかないませんでした。

ぜひ、受講してみてください!

 

水曜1-2限目 “保健医療経済学

オススメ度:★★★★☆

感想:授業内容は医療経済学の内容で、経済学の基礎の部分の話も時折入ってきます。医療経済の特殊な点や、誘発需要や医療費に関する内容なども取り扱われています。

救急車は有料にすべきか?などの同期とのディスカッションもとても有意義でした。

康永先生のご自身の本に書いてあるようなことがメインで、授業ではより詳しく扱われていました。

 

木曜3-4限目 “医学データと統計解析

オススメ度:★★★★☆

感想:この授業のテストは東大SPHの鬼門と言われています笑

ただ統計学の本質というとても難しい内容を扱っているのですが、授業自体は僕としてはとても分かり易かったです。

僕の代は、新型コロナウイルスの影響で筆記試験がなかったので、全然統計学が分かっていないまま授業に突入してしまい、

授業中よく(???何いっているんだ???)となっていました笑

テスト自体も、授業が終わってすぐではなく勉強時間をとってくれて7月の末くらいに行われます。

テストに向けて、カイ二乗の検定や95%信頼区間を手計算できるようになったり、ロジスティック回帰の式からオッズ比を計算したり、生存曲線を書いて指数分布に当てはめてみたり、など結構詳しく勉強しないと解けない問題も多いので、

テストに受かるために勉強する中でとても統計について理解が深まりました。

ありがとうございました。

 

木曜5限目 “深層学習

オススメ度:★★★☆☆

感想:去年に機械学習をかじっていたので、ちょっと手を出せていなかった深層学習について勉強したいなと思って授業をとってみました。

あ、これは東大SPHの授業ではありません。

東大SPHでは、8単位までは専攻長の許可を得て、他の学部の授業も単位認定してくれます。

授業では、深層学習の理論的な部分の講義を受けて、

実際にGoogle colaboratoryでコードを書いてみる、ということをしました。

4-5月は毎回授業後に課題があって大変でしたが、6月くらいから課題がなくなるので、興味深い授業を聞いているだけで良くて楽しかったです笑

 

ちょっと脱線しますが、

東大SPHの良さは「東大の授業は基本、自由に受講できる」ことにもあると思います。

特に、今年はほとんどがオンライン授業だったので、聴講の依頼だけしておけば、いろんな授業に顔を出すことができました笑

東大SPHで学びながら、他の学部などの授業も受けられるので、ぜひ自分の興味に合うものを探してみてください!

僕は、

・マーケティングI

・Pythonプログラミング入門

・日本の財政金融政策

・現代経済理論

・日本経済I

・社内イノベーター・リーダーシップ

など、かなり色々かじりました笑

 

金曜2限目 “疫学研究と実践 (聴講)

オススメ度:★★★★★

感想:栄養疫学の佐々木敏先生の授業で、めちゃくちゃ面白いです。

疫学研究とはどういったものか、何に気をつけるべきか、

科学者とはなんたるか、佐々木敏先生が雄弁に語ってくださいます。

東大SPHの「疫学研究と実践」の講義資料が、先生の研究室のサイトで公開されています。

http://www.nutrepi.m.u-tokyo.ac.jp/lecture/lecture.html

ぜひ、試しに読んでみてください。

僕は、「栄養疫学」にはほとんど興味がなかったのですが、

佐々木先生の授業を受けているうちにとても強い関心を持つようになりました。

誰でも見れるように公開されているので、この記事でもスライドを引用させてもらいますが、

「医者が高血圧患者に降圧薬を処方するより、国民全体で減塩した方が効果大きいよ」みたいなスライドが紹介されていて、

個人的にはかなりショッキングでした。

あとは、授業自体も佐々木先生のユーモア溢れる語り口もあって、

ものすごく面白いです。

このゴールドバーガーさんなどは、一般的には全く知らない学者だと思いますが授業で紹介されていて、マッドサイエンティスト感がすごかったです笑

こういう風に、授業の内容も興味をそそるような感じで展開していきました。

 

さらに良いのが、S2タームくらいになってくると、

英語論文を読んでレポートを書くという課題が始まり、

優良なレポートは授業中に取り上げられます。

論文の選び方は「今週は”case-control study”に関する論文」みたいな感じでテーマが出されるので、

みんな思い思いの興味のある論文を読んできて紹介するって感じです。

この同期の発表もめちゃくちゃ勉強になって、刺激を受けました。

 

人生で初めて「この授業が終わっちゃうなんて寂しいな」と思った、名講義でした。

佐々木敏先生が来年度までで定年なのが、ものすごく悲しいです。

 

金曜3-4限目 “医療情報システム学

オススメ度:★★★★☆

感想:電子カルテの仕組みや、データの標準化について、データの暗号化についてや、最近流行の深層学習の医学への応用について、個人情報保護法と医学データや研究との関係など、医療データを扱う上で不可欠な知識がふんだんに盛り込まれた授業でした。

特に僕が好きだったので、暗号化の歴史から紹介された暗号化の授業と、

医学用語の意味を一つ一つ教え込むことで生まれた「臨床医学オントロジー研究開発」の概要の説明があった回でした。

この科目は試験がありますが、試験勉強で授業の大事な部分が復習できました笑

 

以上がS1タームの授業でした。

意外と盛り沢山ですね。

 

 

では次は、

S2ターム(6/4~7/31)の授業についてです。

 

月曜3限目 “法医学

オススメ度:★★★☆☆

S1タームから継続なので、略

 

火曜3-4限目 “臨床研究のデザイン

オススメ度:★★★★☆

感想:臨床研究のデザインについての授業ですが、課題の英語論文を読んできて、授業中にCONSORT声明(RCTのガイドラインみたいなもの)に1項目ずつ照らし合わせてみる作業などをして、より理解が深まりました。

「医薬品の承認審査・先進医療の評価の概要と実際」みたいなテーマで、国立がん研究センターの生物統計部の方からの講義があったのですが、

・日本では薬事法上の承認と保険適用がほぼ一致しているが、アメリカではそうではない

・「小さな差を大きな臨床試験で検出されること」への批判や、臨床試験で得られた情報と薬剤価格とを付き合わせてその価格が臨床効果に見合うかが問われ始めている

などなど、とても面白い授業でした。

なかなか難しい内容も多かったですが、統計や疫学研究のバックグラウンドがあると判断されるMPH(公衆衛生学修士)としては避けては通れない内容だと思いました。

 

水曜1-2限目 “臨床疫学

オススメ度:★★★★☆

感想:一応、小児科医として臨床をやっていた時から臨床疫学の論文は意識的に読んでいたり、関連の入門書は読んだりしていたのですが、

特に、

・傾向スコア分析や逆数重み付け法

などに関しては、色々と理解できてなかったんだなぁと感じました。

 

・EBMと診療ガイドラインの授業では前立腺癌に対するPSAによるスクリーニングについての議論をしたり、コホート研究や症例対象研究について、回帰分析や差分の差分析や操作変数法など、系統立って勉強できたのは良かったです。

ただ、レポートは結構重かったです。

「自分自身で、臨床的な疑問(Clinical Question)を挙げて、それをRQ(Research Question)に落とし込んでください。その際には、文献レビューを行い5~20本くらいの英語論文を読んで引用してください」

みたいな内容です。

教授も、1ヶ月前から準備していってください、と事前に注意してました笑

 

木曜1-2限目 “医療情報システム学実習

オススメ度:★★★★☆

感想:東大の大江先生の研究室で開発され、糖尿病DBプロジェクト(J-DREAMS)や日本腎臓病学会のJ-CKD-DBや、日本循環器学会の循環器疾患レジストリ拠点などで使用されている、MCDRS(マックドクターズ)という多目的臨床症例登録レジストリを使用して、

自分独自のデータベースを設計して作ってみる実習を行いました。

個人的は、川崎病の採血結果も統合したデータベースがあるといいと思ったので、川崎病のデータベースを作ってみました。

成育とかに導入できたらいくらでもいい研究ができそうなのになぁと思いましたが、なかなか先導できる研究者がいないんだろうなと思いました。

 

木曜3-4限目 “医療統計学実習” (聴講)

オススメ度:★★★☆☆

感想:”JMP”という、基本的にクリックだけでデータの可視化や統計解析を行うことができる統計ソフトを使って実習を行っていきます。

統計ソフトを全く使ったことがない、という方でもできるようにかなり詳しい実習書がついていて、授業の時間を使って進めていく形式でした。

僕も全く使ったことなかったですが、授業を全部出てこなしたので、初心者レベルにはできるようになりました。

この授業は、授業ごとの課題や、最後の授業日には統計データを用いて発表しないといけないという課題があったので、聴講にさせてもらいました。

 

木曜5限目 “深層学習”

オススメ度:★★★☆☆ S1タームから継続なので略

 

金曜2限目 “疫学研究と実践”

オススメ度:★★★★★ S1タームから継続なので略。とてもいい授業です笑

 

金曜3-4限目 “公共健康情報学”

オススメ度:★★★☆☆

感想:授業スタイルとして、履修生にどんどん質問して話し合う時間をかなり多くとる授業でした。最初の授業が、参加者の自己紹介だけでほぼ終わったのはビビりましたね笑

「公衆衛生学上の一番の課題とは」というテーマでのディスカッションは、他の同期の意見が聞けてとても面白かったです。

外部講師の授業の時はかなり内容の詰まった授業で、京大SPHの中山先生の健康情報学の授業などは興味深かったです。

 

以上、S2タームの授業でした!

やはり、S1タームが授業が詰まっていて、S2ターム、A1, A2タームと授業数は徐々に減っていく傾向にあるようです。

 

番外編ですが、

夏季集中講座 “予防保健の実践と評価” (聴講)

オススメ度:★★★★☆

感想:夏休み(大学院生なので夏休みがある!笑)に行われる「夏季集中講座」で1週間で12コマ(1コマ105分)の授業が詰め込まれています。

・アメリカ、イギリス、日本における栄養に関するNational surveyについて

・国民健康/栄養調査を行なっていた研究室長の方の、実務を踏まえた講義

・環境医学とエコチル調査について

などなど、めちゃ面白い内容が満載でした。

ぜひ、聴講の連絡をして興味のある授業だけでも聞くと良いと思いました。

 

 

 

前期の授業内容についての感想は以上になります!

正直、これまで「授業=ダルイ、つまらない」みたいな感覚を持って生きてきましたが、

東大SPHでは次々と、興味深い・ワクワクする・知的好奇心をくすぐるような授業を受けることができて、かなり感動しました!

五段階評価でしたが、受講した授業は全て星3つ以上になりました笑

 

元々、「MPH取るなら海外っしょ」とイキってたのが恥ずかしくなりました・・・

むしろ、日本特有の問題や、日本の行政システム、日本の個人情報保護法の問題、日本の法医学の問題、などなど、絶対これ海外のMPHじゃ勉強できないじゃん・・・っていう内容も多かったです。

逆にGlobal Healthとかをメインにするなら、物足りないかもしれません

 

今回、意外と東大SPHに入学する前に入学後にどういった授業を受けられるか、具体的なイメージが沸かなかったので、

受験を検討している人に少しでも参考になればと思って書きました。

 

1人でも、読んで役に立つ人がいればいいなと思います。

 

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