タイでCase Study 50歳男性 主訴「咳 左の首の痛み」

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次郎作です.

僕は今,タイのシリラート病院というところに2ヶ月間海外臨床実習に来ています.

今日は,そのタイの病院で実習中に学んだ内容について書きたいと思います.

 

 

今日僕が9時に外来に行くと、部屋に入るや否や、

「身体所見とってみなよ!」

と、言われました。

(お、無茶振りきたな!?)と思いつつ、

今回っている科は呼吸器内科なので、聴診を中心に戸惑いながら診察を始めます。

 

「触ってみな!」

と、言われて触った首からは、何の情報も得ることが出来ず、

胸の聴診に移りました。

 

(あ~あ、胸の音とか実際の患者さんでは、喘息とか間質性肺炎とかしか聞いたことないし、

どうせ、分からないやつだろうな~・・・)

そんなことを思いながら、聴診をすすめていきます。

習った通り、大きく呼吸をしてもらいながら上から順に左右で較べながら聞いていくと、

・・・!

 

明らかに左の肺の呼吸音が聞こえない!!

 

ここまで、明らかな呼吸音減弱は初めて聞きました!!

これなら分かるよ、先生!!

 

「次は、叩いてみな!」

言われるがまま、胸を打診してみます。(打診とは、胸を指で叩いて反響を聞く診察法)

 

右の肺「ポッ ポッ ポッ」

(鼓音と言います。下に空気があることを示唆します)

 

左の肺「ド ド ド

(濁音と言います。下に実質臓器があることを示唆します)

 

・・・!!!

 

聴診上左肺全域で、呼吸音が聞こえず、

打診上左肺全域で、濁音が聞こえる。

 

・・・先生、

 

・・・左肺の無気肺ですね!?

 

先生は、黙ってレントゲンを差し出しました。

写真 2015-05-06 9 23 12

・・・やはり、無気肺に矛盾しない所見!

僕は再度無気肺だと先生に伝えました。

 

僕は、人生で初めて身体所見のみから病態を当てることが出来て有頂天になっていました。

 

しかし、

これだから医学生は医学生なのです。

 

医者の本分は「考え得る全ての鑑別診断を挙げて、1つずつ検証していくこと」

これにより、重大な見逃しをなくすことができ、常に最善の判断が出来ます。

 

それに対して、医学生は往々にして「病名当てゲーム」に興じてしまいます。

「紛れもない1つの正解」を導き出すテストで、常にいい点を取ることを義務付けられてきた人たちだからです。

しかし、病名を当てにいく考え方は臨床の現場では、とても危険です。

まずその病名を思いつかないと当てられない上に、考え漏れてしまう病気がたくさん出てきてしまうからです。

こんなことを書いている僕も「病名当てゲーム」に興じてしまう1人。

この症例で言えば、「無気肺」と決めつけることで、視野狭窄に陥っていたのでした。

 

先生は優しく諭してくれました。

「このレントゲンで言えば、左胸水がたまっている可能性はないかな?」

 

僕(・・・!! 確かに!!胸水でも肺野は白くなりうる!)

先生「なぜ、左胸水ではなく無気肺と言えるか分かるかい?」

僕「・・・」

先生「じゃあ、このレントゲンで心臓はどこにある?」

僕 (!?!?) 「見えてないです。」

先生「そう、この左側の真っ白の部分に隠れていると考えられるよね。これは、胸水ではおこらないけど無気肺ならあり得るよね」

僕「なるほど・・・」

先生「あと、肋間が右に比べて左で狭くなってる。これも胸水では見られないけど無気肺では

見られる所見だよね。」

僕「確かに・・・」

 

もちろん診断は無気肺でよかったんだけど、診断過程はものすごく大事だなと考えさせられました。

ちなみに、患者さんの主訴は「咳 左の首の痛み」で、

最終的に、「結核」による左主気管支閉塞が疑われ、気管支鏡を行うことになりました。

 

 

結核で無気肺になるのか・・・笑

 

とても学びの多い日々を送っています。

次郎作
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