目次
1. 【ECMO総論】
2. 【ECMO機能の規定因子】
3. 【V-V ECMO流量と酸素運搬量の実際】
4. 【V-A ECMO流量と酸素運搬量の実際】
5. 【ECMOの各種設定とアラーム値】】
6. 【ECMO中の全身管理】
7. 【合併症】
その他の巻についてもこちらをご覧ください↓
——————————————————————–
【1.ECMO総論】
(筆者大幅追記)
ECMO:ExtraCorporeal Membrane Oxygenation
体外式膜型人工心肺
[仕組み]
・著しい循環不全あるいは、呼吸不全を呈する患者に対して、大静脈から血液を抜きとり(脱血)、人工心肺で酸素化した後に、体内の大動脈あるいは大静脈に戻す(送血)装置。
・デバイスとしては今後もクリティカルケアにおいて重要な役割を担うものではあるが、エビデンスの蓄積がなく、施行数や施行施設数ばかりが先行している実情もある。
①:静脈(V)から抜き取り、静脈(V)に戻す:V-V ECMO = Respiratory ECMO
②:静脈(V)から抜き取り、動脈(A)に戻す:V-A ECMO = PCPS(経皮的補助人工装置)
である。
①:右心房から静脈血を脱血し、大腿静脈に送血することが多い。
②:右心房から静脈血を脱血し、大腿動脈に送血することが多い。
(INTENSIVIST本稿より。改変)
これにより
①:右心房にある酸素化されていない血液を、ECMOで酸素化して、大腿静脈に送血する。
→肺で酸素化をする必要がなくなる。
(真に物理的に肺をショートカットさせるためには、右心房から抜いて左心房に戻すことが理想であるが、実際には左心房に送血ルートをアクセスさせることは難しい。)
②:右心房にある酸素化されていない血液を、ECMOで酸素化して、大腿動脈に送血することで、肺と心臓をショートカットする。
→肺で酸素化をする必要がなくなる。
→加えて、心臓のポンプ機能も代償する。
(真に物理的に心臓をショートカットさせるためには、右心房から抜いた血液を左心室から上行大動脈に向けて送血するのが理想だが、実際にそのようなアクセスは難しい。)
・日本においては狭義のECMO(V-A ECMO)のことをPCPSと呼称している。
[ECMOのCO2除去]
・人工肺では二酸化炭素の除去が行われるが、除去量に影響を及ぼす重要な因子は、膜型肺の表面積と血流/スイープガス流量比である。
・スタート時は血流/スイープガス流量比を1:1として始めるが、PCO2が上がってくるようであれば、スイープガスを増量しながら正常値となるように調節する。
・自己肺での酸素化が保たれている症例で、二酸化炭素の除去だけが目的であれば、A-V ECMOも使用できる。
——————————————————————–
【2.ECMO機能の規定因子】
a. 流量
・流量の計算式はニュートン流体力学の式によって規定される。
・簡潔に示すと、流量は
カニューレの半径の4倍に比例し
カニューレの長さに反比例する
ため、カニューレ(血管内に挿入する太いカテーテル)は太くて短いほうがよいことが分かる。
・1.7L/min/m2までは比較的臓器への酸素供給が保たれると言われている。
b. 酸素運搬
・ECMO稼働中は、循環血漿量という概念が体外循環流量という概念に置き換わる。
・酸素運搬量は、人工肺で酸素化した血液の酸素含量と体外循環流量とに依存する。
・計算式としては下記のようになる。
CaO2 = 1.34×Hb×SaO2+0.003×PaO2
DO2 = CO×CaO2
(CaO2:動脈単位体積あたりの酸素含有量)
(DO2:酸素運搬量)
(CO:体外循環流量L/min)
式を覚えておく必要はまではないが
・酸素運搬量がヘモグロビンの値に比例すること
・酸素運搬量が酸素飽和度の値に比例すること
・一方で酸素分圧PaO2は(係数が0.003なので)無視できること
を覚えておくことが重要である。
大切なのは、酸素と結合しているヘモグロビンがどれだけ多いか(酸素飽和度)であって、血中にどれだけ酸素が溶けているか(酸素分圧)は重要でないことを理解する。
COが低下してきた場合には、原因として下記が考えられ、対処としてはV-A ECMOに移行するほかない。
http://square.umin.ac.jp/jrcm/pdf/ecmo/ecmotext01.pdf
c. 末梢循環
・ECMOはもともと存在する生体炎症反応を増幅し、血管透過性を亢進させる
・臓器浮腫を生じ組織障害が生じる。特に腸管において影響が大きい
・また、V-A ECMOにおいて、心臓の拍動がなくなること、つまり非拍動性に血液が循環することにより血管の収縮性が損なわれ微小循環障害が発生する。
——————————————————————–
【3.V-V ECMO流量と酸素運搬量の実際】
(参照:http://square.umin.ac.jp/jrcm/pdf/ecmo/ecmotext01.pdf)
・上述のように
CaO2 = 1.34×Hb×SaO2+0.003×PaO2
DO2 = CO×CaO2
(CaO2:動脈単位体積あたりの酸素含有量)
(DO2:酸素運搬量)
(CO:体外循環流量L/min)
である。
つまりPaO2を無視すると、
DO2 = CO×CaO2
=CO×1.34×Hb×SaO2
となり、循環している動脈の酸素運搬量が計算式により導き出される。
ここでSaO2→SvO2と換えれば、静脈の酸素運搬量が計算できるし、さらには、
(SaO2 – SvO2)
を考えれば、動脈と静脈の差が分かる。
→動脈と静脈の差 = ECMOにより供給された酸素量である。
つまり、これらのことから
肺による酸素供給量(mL/min)
= (SaO2 – SvO2)×CO×1.34×Hb×10 …(①)
あるいは
ECMOの酸素供給量(mL/min)
= (SaO2 – SvO2)×CO×1.34×Hb×10…(②)
という式が導かれた。
ここで一般成人男性の例を考えてみる。
前提として
SaO2=100%,
CO = 5L/min
Hb = 14mg/dl
肺による酸素供給量 = 210mL/min
である。
これを式②に代入して逆算すれば、成人男性においてECMO導入中に目指すべきSvO2の値が分かるはずである。
つまり、
210 = (SaO2 – SvO2)×CO×1.34×14×10
(1 – SvO2)×CO = 1.1
→これはCO = 4L/min, SvO2 = 73%に相当する
[リサーキュレーションとは]
・上記の計算式では便宜上、ECMOを完全な肺に見立てて計算したが、実際には、肺とECMOは違う。
・大きく違うのは、ECMOが右房から脱血して、大腿静脈に戻す仕組みしか取れないということである。
・言い換えれば、右房から脱血して酸素化した血液をもう一度右房に戻すのである。
→つまり、酸素化して右房に戻した血液が、循環する前に脱血カニューレから脱血されるという事態がどうしても避けられないのである。
これをリサーキュレーションと呼ぶ
→脱血カニューレ内の酸素飽和度=S(脱)O2は送血された血液を含むので、実際のSvO2よりも高くなる。
ここで気を取り直して、上記の式②を正確なものに書き直すと
ECMOの酸素供給量(mL/min)
= {S(送)O2 – S(脱)O2} × CO×1.34×Hb×10
となり、S(脱)O2 = 73%とするのが上述の式から導き出された目標である。
S(送)O2は送血カニューレ内の酸素飽和度であるが、当然100%である。
上記のごとくリサーキュレーション率が規定されることから、計算により、
S(脱)O2 = 73% の場合に、SvO2とSaO2がとる値が分かった。
まとめると、上記の結果により、成人男性の210mL/minの酸素運搬量を保つためには下記のごとき値を目指さなければならないことが分かった。
(筆者改変)
——————————————————————–
・V-A ECMOでは脱血と送血の混合がないことから、リサーキュレーションは起きず、
・S(脱)O2 = SvO2として考えることができる。
・S(脱)O2 = SvO2はリサーキュレーションがないことから、V-V ECMOよりも低くてよい。
cSvO2 = S(脱)O2
http://square.umin.ac.jp/jrcm/pdf/ecmo/ecmotext04.pdf
[ミキシングポイントとは]
・V-A ECMOでは酸素化した血液を下降大動脈から、心臓に向けて吹き付けるため、自己心の拍出した血液とECMOによる送血がぶつかるポイントがある。これがミキシングポイントである。
・上図より、解剖学的に、右上肢のSpO2やSaO2が問題なければ、自動的に左上肢も保証されるが、左上肢の酸素化が良くても、右上肢が良いとは限らない
→酸素化の計測は全て右上肢で行う必要がある。
① 右腕頭動脈の血流は自己心からの拍出に依存する。
② 右腕頭動脈の血流はECMOからの送血に依存する。
③ 上肢血流(左右鎖骨下、総頚動脈)は自己心からの拍出に依存する。
a. 心機能が極度に低下している時
・通常は①のごとく、大動脈弓部にミキシングポイントを設定するが、心機能が極度に低下している例では、上肢血流をECMOにより担保する必要があるため、②のような設定にする必要がある。
・また、心機能の低下が改善され、上肢血流を十分に担保する拍出量になったとしても、万が一自己肺での酸素化が悪い場合には、低酸素含有の血液が脳を循環することになるため、この場合においても②のような設定をする必要がある。
・V-V ECMOでは、実際の肺よりも前に(右心で)肺をシャントするため、左心に充満する血液は酸素化されているものだが、V-A ECMOでは、酸素化された血液は左心系よりもさらに末梢の大動脈に送血されるため、もしも自己肺の酸素化が悪い場合には、左心には酸素化不良の血液で満たされていることに注意
b. 心機能が回復してきた時
上肢血流をECMOの送血に依存しなくて良いほど心機能が回復した場合には、ミキシングポイントは③のごとく下降大動脈付近となる。
[V-A ECMOと心機能]
・ECMOはあくまでも治療のためのデバイスではなく、機能をサポートするに過ぎない
→V-A ECMOが心臓を保護して回復させる機能を持っているわけではない。
・大静脈からの脱血は右心系の前負荷を軽減するが、大動脈への送血が左心系の後負荷を増大させる。
・つまり一定の流量までは右心前負荷軽減の作用により、左室拡張末期圧は減少するが
流量を増やしていくと左室後負荷増大の影響が強くなり、左室拡張末期圧は増大する。
・心機能が低下している例においては、フランクスターリングの法則はあてはまらず、また後負荷増大にともない心拍数が減少することから、心拍出量が低下する。
・ECMOの使用により、冠動脈血流も低下することが知られている。
・心エコーにて大動脈弁が開いていることを確認する必要がある。
・したがって、V-A ECMO導入後に自己心拍出が十分に得られてないときには、血管拡張薬やIABPを使用して左室後負荷を軽減してあげる必要がある。
(IABPの詳細についてはこちらを参照)
——————————————————————–
[カニューレ]
http://square.umin.ac.jp/jrcm/pdf/ecmo/ecmotext04.pdf
——————————————————————–
【6.ECMO管理の実際】
[①V-V ECMO]
・重症呼吸不全患者において、人工呼吸器管理では生命維持が難しい、あるいは呼吸器設定によりVALIが強く懸念される場合に適応となる。
・心機能が正常、または低下が軽微な場合にはV-V ECMOの適応となる。
・およそ2週間~2か月程度の施行期間に限定すべきである。
a. 血管アクセス
・右内頚静脈および右大腿静脈を使用する。
・どちらを脱血、送血とするかについては、諸説ある。
→右大腿静脈脱血では、(下肢血流の方が多いので)リサーキュレーションが多くなるが、脱血不良の頻度は少なくなる。
→右房脱血はその逆である。
b. 人工呼吸器管理
・Rest Lung設定とし、低い気道内圧、低いPEEP、低い呼吸回数、低いFiO2で管理する。
・急性期の高度の炎症状態から離脱できた場合には覚醒させ、自発呼吸を促す
・V-V ECMOの場合、SaO2は80%程度の維持で良く、無理に人工呼吸器設定を強化しない。(詳細は上述)
c. 抗凝固療法、血液製剤
・ECMO中は回路内の血栓形成を予防するために抗凝固療法が必須である。
・ATⅢ活性が下がっている場合には、ヘパリンの抗凝固効果が得られないため、ATⅢ製剤やFFPを用いて補充する必要がある。
・回路内に血栓が生じた場合、線溶系が亢進し、D-Dimerの上昇、PT-INRの上昇により出血リスクが上昇する。
→回路交換を行う。
・出血の合併症に最大の注意を払う。
→頻度の高い出血部位は外科創部、カニューレ刺入部、気道、上部消化管、頭蓋内である。
d. 離脱の時期と方法
・FiO2<40%
・PEEP<10cmH2O
・十分な酸素化と安定した自発呼吸で二酸化炭素の除去が維持できている
以上が一般的な離脱の目安である。
・そのうえで
①ECMO流量を2L/minまで徐々に減量し
②スイープガスの供給を止める。
(CO2の自己排出が出来るかどうかをテストする)
③動脈・静脈血ガスやバイタルサインの異常がないことを確認したのちに離脱する
・人工呼吸器管理が長かった例では、肺胞レベルでの死腔が増大し、また肺コンプライアンスも低下していることから、酸素化は問題なくても換気能の問題を生じる可能性があるので慎重に。
[②V-A ECMO]
・心停止からECMO装着までの時間が最も強く予後と関連しており、1時間以内に行うことが望ましい。
・V-A ECMOの導入中は後負荷が増大することから、IABPや血管拡張薬により後負荷を軽減する(IABPの詳細についてはこちらを参照)
・MAP>60~80mmHg程度に保つことを心掛ける。
・その他詳細についてはこれまでに記した通り。
a. 血管アクセス
・右大腿静脈脱血、右大腿動脈送血が多い。
・ミキシングポイントなどについては上述の通り
b. 人工呼吸器管理
上述のV-V ECMOの例に準じる。
c. 抗凝固療法、血液製剤
上述のV-V ECMOの例に準じる。
d. 低体温療法
・低体温療法による脳保護を検討する。
・熱交換器付き膜型人工肺を使うことで血液温ひいては体温を容易に管理することが出来る。
・具体的には
*目標温度:32~34℃
*持続時間:12~24時間
*復温時間:12時間で0.5℃
で行う。
ただし、低体温療法自体のエビデンスや上記施行方法はガイドラインによって様々であり、エビデンスの蓄積が待たれる。
・右手SpO2
・SvO2
・EtCO2
・乳酸<4mmol/L
・CVP:12~15mmHg
・なかでもEtCO2は自己心拍が再開した際、肺循環の再開を表すことから、有用である。
f. 離脱の時期と方法
・一定の基準は存在しない
・基本的な考え方は、
「流量を1L/minまで落とした時に循環不全の指標に問題なければ、on-offテストを行い、評価のうえ離脱可能か判断する」
というもの。
・具体的には、流量<1L/minで CI>2.0L/min/m2
sBP>90mmHg
HR<120/min
PAWP94%, PaCO2<45mmHg
の項目を基準として提示する文献がある。
——————————————————————–
【7.施行中の合併症】
a. 出血
・ECMO中は抗凝固療法を施行していることから、出血の合併症には最大の注意を払う
・特に出血をきたし得る侵襲的な手技については、極力施行しないようにする
・たとえば、気胸をきたした場合でも、緊張性気胸でない限りはドレナージ不要である。
・ACTの急激な変動は出血イベントの前兆である。
・出血をきたした際には
①ACT140~160秒程度まで低下させる
②血小板10万/mm3以上に輸血する。
③凝固因子が欠乏していれば、補充する。
[カニューレからの出血]
・多くは、刺入部のずれ、皮膚・皮下組織の小血管の破綻によるoozingである。
・カニューレが屈曲しないように局所の圧迫を加える。
[鼻腔などの粘膜]
・ガーゼパッキングやバルーンカテーテルなどを用いた止血を行う
・不必要な吸引処置を避けるなどの予防に徹する。
[消化管出血]
・H2 blockerやPPIを投与する。
・出血を認めた際には、ヘパリンは中止せざるを得ず、止血を確認した後に再開する
・回路内血栓のリスクがあることから、適宜回路交換の必要がある。
b. 感染症
・ECMO施行中のsepsis合併率は25%に達する
・監視培養や予防的抗菌薬投与を行う施設もあるが、有効性については現段階では不明。
・予防的抗菌薬投与はGPCをターゲットとすることが多い。
・ECMOにおいてはCVカテーテルの時のような回路交換が困難であり、基本的には感染症に対しては回路交換せず、抗菌薬の投与を続ける。
c. 腎機能障害
・ECMO施行中は腎機能障害から水分過多になるケースが多い。
・全体の22%に腎機能障害を認め、RRT(Renal Replacement Therapy)が48%で行われていたというデータがある。
(ただし、欧米のECMOにはContinuous RRTが組み込まれているため、施行率が高い)
・新たにCRRTを導入する際には血管確保の面や出血の面から難渋することが多い。
d. ECMO流量の減少
・血管内脱水により、血管径が縮小すると、脱血カニューレと血管壁が接着し、脱血圧の陰圧が増強してしまう。
・脱血圧が強い陰圧になると(<-120mmHg)カニューレががたがたと震え始める。
・さらに進行すると、ECMO流量が低下する。また-100mmHgを超える脱血圧や400mmHgを超える送血圧では血球破壊が起きるため、避けなければならない。
→まずはECMO流量を保つため、ポンプの回転数を減らして陰圧を減少させる必要がある。
・血管内脱水の他には、カニューレ内の血栓付着などの要因もある。
・心タンポナーデ、緊張性気胸、カニューレ不全なども
川良健二
その他の巻についてもこちらをご覧ください↓