呼吸器離脱(INTENSIVIST VOL.4NO.4)の重要項目まとめ

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目次

1. 【Spontaneous Breathing Test: SBT】
2. 【呼吸器離脱困難】
3. 【抜管】
4. 【気管切開の役割】

 

 

 

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INTENSIVIST 重要項目まとめ

 

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【1.Spontaneous Breathing Test: SBT】

・長期人工呼吸や呼吸器離脱の遅延は、VAPやVALI(Ventilator Associated Lung Injury)、DVTなどの合併症と死亡率の上昇をきたす。
・一刻も早く抜管を試みなければならない。
・SBTの開始基準や成功基準はさまざまなものがあるが、いずれも大差なく、どれが最良かの判断は付きづらい

[実際の施行方法]
・酸素化については
① FiO2<40%
② PEEP<5cmH2O で、SpO2>92%ならよしとする。

・必ずしも動脈血ガスでP/F ratioを測定しなくとも、SpO2だけでも十分な場合もある。

・SBTに加えて、あらかじめSAT(Spontaneous Awakening Test)を行うことで、人工呼吸器装着期間の短縮や譫妄の予防になる。
・SATで中止した鎮静薬は、中止のままSBTを施行する。
(SATは事故抜管を増やさない。あるいは事故抜管があっても再挿管は増えない)


https://www.jaccn.jp/guide/pdf/proto2.pdf

 

・SBTの施行時間は30分~2時間と幅がある。
・SBTの施行時間は初回は30分で十分。
・1日1回のSATに加えて、覚醒のたびに理学・作業療法を行った群では、そうでない群にくらべ、譫妄の期間が短縮した。
・医師は人工呼吸器離脱の成功率を過小評価しがちである

 

[SBT失敗のファクター]
a. 呼吸負荷
・不適切な呼吸器設定
→COPD患者など、内因性にPEEPがかかっている状態の患者に対しては呼気時間を長く設定する必要がある。
→内因性のPEEPよりも低いPEEPを設定することで、呼吸器をトリガーできるように設定する。

・VAP, 心原性浮腫, びまん性肺浸潤などの肺コンプライアンス低下
・気道気管支収縮
・抜管後の声門浮腫、気道分泌の増加

b. 心臓負荷
・既存の心機能障害
→呼吸器からの離脱で、心臓の前負荷・後負荷が増大。また、呼吸筋の酸素需要も増大する。
・敗血症性心筋症

c. 神経・筋
・代謝性アルカローシス
・鎮静/鎮痛
・人工呼吸器管理は横隔膜の筋萎縮を引き起こし呼吸筋力を低下させる

d. 神経心理学
譫妄、不安、うつ
→譫妄は入院日数を延長し、6か月死亡率を上昇させる
→ミダゾラムの死亡はデクスメデトミジンに比べ譫妄のリスクを上昇させた。
→デクスメデトミジンの投与はICUのせん妄発症予防に役立ち過鎮静日数・オピオイド必要量を減らす
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29498534

・投与方法

e. 代謝
高血糖、代謝障害
→低リン、低マグネシウム、低カリウム血症は呼吸筋力を低下させる。
→補充することで、横隔膜収縮力が改善する。

 

・SBTに失敗した場合には、呼吸筋の回復のため24時間以上空けて再度トライする
・再トライまでに、失敗の原因を検索する

 

 

 

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【2.呼吸器離脱困難】

・人工呼吸器を装着している時間のうち、離脱にかかる時間が占める割合は40-50%と言われている。
・装着期間が長引けば、死亡率の上昇・医療費の増大を招く。
・7日以上の呼吸管理を必要としたのは、全体の7%にすぎない。
・4回以上のSBT、あるいは1回目のSBTから呼吸器離脱まで7日超を必要とした場合、prolonged weaningとなる.

[危険因子]
・肺炎が原因による呼吸器装着
・離脱開始前の高いPEEP
・COPD以外の慢性呼吸器疾患
・離脱開始までの人工呼吸器装着日数

 

 

 

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【3.抜管】

[抜管の成功と不成功]
・「抜管後48-72時間以内に再挿管を必要としないこと」が成功の定義
・再挿管は抜管後24時間以内に多い
・再挿管は院内死亡率、ICU滞在期間、入院期間、院内肺炎の発生の増加と関連する。
・人工呼吸器離脱の指標として、rapid shallow breathing indexというものがある
→呼吸回数fと一回換気量Vtのみによって表される
→f/Vt>105の場合には離脱失敗する確率が非常に高くなる。

[抜管によって生じる生理学的変化]
a. 上気道の変化
・嚥下機能の低下による誤嚥
・喉頭痙攣
→抜管直後に発生しやすい。
→十分に覚醒が得られていないケースで多い。小児で多い
→気道確保と陽圧換気を行いながら、プロポフォールorロクロニウムを投与

・喉頭損傷
→乱暴な挿管操作、長い挿管期間などでリスクが高い
① 喉頭浮腫
② 粘膜潰瘍
③ 声帯・気管内の肉芽形成
④ 声帯麻痺(チューブと甲状軟骨の間で反回神経が圧迫されて生じる)

 

b. 呼吸器系の変化
① 気管支痙攣
② (陽圧がなくなることによって)胸腔内血液容量の増加。肺血管外水分量が増加する
→肺コンプライアンスの低下、換気血流比不均等により呼吸仕事量が増大する
③ 機能的残気量の減少
PEEPあり→なしの変化で肺胞が虚脱する
→機能的残気量が減少し、無気肺が形成される。

 

c. 循環器系の変化
陽圧換気から自然呼吸への変更によって循環動態が変化。
一般に陽圧換気中は、胸腔内圧が上昇し
・静脈灌流量が減少し、心臓前負荷が減少
・収縮期左室壁内外圧差の減少→後負荷の減少
→心機能低下症例に対しては、有利に働いている状態
→抜管時は、これらの作用がなくなるばかりでなく、カテコラミンの分泌により頻脈・血圧上昇が起きる
→抜管時には適宜降圧薬や抗不整脈薬を使用する。

 

[抜管後喉頭浮腫]
・抜管に際し、30%以上で出現するとの報告もある
・喉頭浮腫の診断はstridorなどの高調音の聴取を前提とする。
・ほとんどは抜管から30分以内に出現する

a. 危険因子
・挿管期間
・ICU滞在日数
・女性
・大口径の気管チューブ
・外傷患者

b. カフリークテスト
・カフを入れた状態と抜いた状態で1回換気量を計測する
→喉頭浮腫があればその差は少なくなる(浮腫によって、気管がふさがれているのでチューブを通して普通に換気できてしまう)
→喉頭浮腫がなければ、チューブを通る空気が少なく、モニター上は換気がうまくいってない状態になる
○カフリークボリュームが110mL以上でカフリーク陰性→喉頭浮腫なし
●カフリークボリュームが110mL以下でカフリーク陽性→喉頭浮腫あり

・ただしカフリークテストの陰性尤度比は0.46であり、陰性でもかならずしも浮腫がないとは言えない。


http://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20171010Nagano.pdf

c. 予防的ステロイド投与
・抜管後喉頭浮腫の最も有効な予防法はステロイド投与である。


http://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20171010Nagano.pdf

 

d. 治療
・再挿管、輪状甲状穿刺/切開が必要となる可能性もある
・再挿管困難であることも多く、チューブエクスチェンジャー(ブジーのようなもの?)を留置しておくことも考慮する
・内科的治療としては
① ステロイド(プレドニン0.5mg/kg/day)程度の投与
② アドレナリン1mg+生食5mLの吸入

 

[再挿管]
a. AECの使用
・再挿管のリスクが高い患者においては、AEC(Airway Exchange Catheter)を用いる。
(中空になっている細いチューブで、気管チューブを通して気管内に留置できる。中空なので酸素投与も可能)
・ガイドワイヤーの役割を果たすので、再挿管時にはAECを通して挿管できる。
・困難気道や喉頭浮腫の存在する症例では4時間以上は留置する。
・最大で72時間は留置可能
→患者は咳嗽・発語が可能

・AECを通して酸素投与を行う場合は圧損傷を防ぐために、2L/min以下にする
→AECを口角に移動させればNPPVの使用が可能。

b. Rapid-sequence intubation
・緊急時の挿管方法としてはRSIが挙げられる。以下にその標準的な方法を示す。
・ただし、安易な鎮静と筋弛緩RSIによりCICV(Can’t intubate, Can’t ventilate)、つまり換気も挿管も出来ない状況になれば、患者はすぐさま死に至る。
・困難気道が予想される症例や、そもそも十分な筋弛緩を得られるまで酸素化が保てない症例では適応外となる
→換気可能であることが前提となる
・後述するように、外科的気道確保が必要となった場合には速やかに施行しなければならない。

<実際の方法>
・前酸素化
迅速導入では患者の意識消失から気管挿管終了までの時間を短縮するため、静脈麻酔薬と筋弛緩薬は間をおかず投与される。この一連の流れによっても無呼吸の時間は30秒程度になると考えらえる。喉頭展開や気管挿管に手間取った場合、無呼吸の時間は容易に60-90秒を超える。この間、動脈血酸素分圧を安全な範囲に保つためには、麻酔導入前の酸素化が重要な意味を持つ。3-5分の通常換気量あるいは、それには劣るが1分間に8回の深呼吸による酸素化で挿管に備える。

筋弛緩薬非投与下でも、レミフェンタニルとプロポフォールを使えば挿管は可能だが、嗄声や声帯のびらんなどの合併症を引き起こすリスクが高くなることから、筋弛緩薬投与可能な状況であれば、使用が推奨される。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/28/4/28_4_590/_pdf/-char/ja


http://www.med.nihon-u.ac.jp/department/eccm/study/2014/mawatari_20140623.pdf

 


http://anesth.or.jp/63rd/file/R03_sap.pdf

 

c. 外科的気道確保
・CICVの状況では、まずラリンジアルマスクの挿入を試みる
→困難/失敗例では迷わず外科的気道確保に移行する
→CICVの状況では対応の遅れは死に直結する
→低酸素血症による徐脈が発生する前に行動を開始している必要がある。

① 静脈留置針による輪状甲状間膜穿刺
14-16Gの留置針をシリンジにつけ、針が気管内に到達したことを確認し外套のみを留置。
→排気のためには、上気道へのガスリークが必要であり、上気道が完全に閉塞している状況では圧損傷が起きる。
→留置針が細いため、血液や痰、屈曲による閉塞をきたす恐れがある

② 輪状甲状膜切開
メスで皮膚・輪状甲状間膜を水平方向に1.5-2.5cm切開した後に、輪状軟骨に気管フックをかけて尾側上方に牽引する。6mmのカフ付きチューブを挿入する

→①の方法は成功率が低く(37%との報告あり)、メスを用いた直接輪状甲状間膜切開を行うのがよい
→ただし、10歳未満の小児では切開の主義が困難であり①の方法を選択する。

 

 

 

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【4.気管切開の役割】

・習慣的に、気管挿管が2-3週間に及んだ例において気管切開が行われる。
→喉頭損傷などの合併症が増加する時期にあたる。
→気管挿管の気管が3週間を超えると離脱失敗率や死亡率が高くなるためその期間内で気管切開が行われる

①気管切開のメリット
・挿管チューブにくらべ短いことから
→呼吸仕事量の減少、死腔減少、チューブ内の清潔が保ちやすい
・口腔、咽頭、喉頭の損傷が少なくなる
・口腔内ケアを行うことが出来るようになる。
→VAPが減少する
・患者の快適性が向上する。嚥下が容易になる

②デメリット
・主に気管切開術に伴う合併症が挙げられる
・術後感染は縦隔炎や壊死性菌膜炎に至ることがある。

 

[長期人工呼吸器管理の予測]
・長期人工呼吸器管理患者を予測する精度の高い方法が確立されていない
・人工呼吸器管理が必要な気管を予測することが出来なければ、気管切開へ変更すべきか毎日検討する必要がある。
・気管切開のメリットばかりに捉われて、短期間で抜管できる患者にまで気管切開を行ってしまうおそれがある。
・気管切開までの気管の中央値は9日、11日、20日という報告がある。
・気管切開のタイミングが肺炎合併率、入院期間、呼吸器離脱、長期の生活機能、短期・長期生命予後に及ぼす影響に関して明確なエビデンスはいまだ存在しない。
→しかしながらそう気管切開による鎮静薬投与期間は短縮し、離床をはやめることは可能。

 

 

川良健二

 

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