目次
1. 【肺エコー】
2. 【循環器エコー】
3. 【腹・骨盤部エコー】
4. 【眼エコ―】
その他の巻についてもこちらをご覧ください↓
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【1.肺エコー】
[描出エリアと基本ビュー]
・気胸を疑う場合にはゾーン1,2を
・胸水を疑う場合にはゾーン3,4を
・基本ビューはbat sign
→まずはあえて肋骨を画面所に描出し、このビューで胸膜を正しく認識する。
[肺エコーと基本所見]
①lung sliding
・Bat signビューで観察を行うと、胸膜ラインが水平方向に地滑り運動のようにゆっくりと大きく動く所見が観察される。
・呼吸運動に伴う肺の伸縮を見ている所見であり、①肺実質が存在すること②換気が行われていることの二点を示す
・lung slidingの消失により、気胸の存在が示唆される
(胸部Xpと比較して、感度に優れ、特異度に有意差がない)
②lung pulse
・胸膜ラインが水平方向に小刻みに心拍動と同期して動く様子を表す。
・肺実質が存在することを示す。
・換気が行われているかどうかには関わらない
→片肺挿管の際には、lung pulseは観察されるが、lung slidingが消失する。
③A-line
・含気が十分な健常者に認める。
・プローブと胸膜エコーコンプレックスの距離の等数倍の位置に観察される多重反射アーチファクトである。
④B-line
・病的所見。肺水腫、肺炎、ARDS、間質性肺炎などで陽性となる。
・胸膜に起始し、より深部にみられるアーチファクトであり、肺胞間にある水分を反映するとされる。
・深部にまで減衰せずに表示されることが後述のcomet tail artifactとの違いである。
⑤comet tail artifact
・胸膜が不整な部分で観察される、胸膜に起始し深部に向かい急速に減衰する短く高輝度なアーチファクト。
・大きな臨床的意義はない。
・comet tail artifactを目印にlung slidingやlung pulseを確認すると便利。
[肺エコーと診断]
a. 気胸
・気胸を疑う場合にはゾーン1,2を(上述)
・lung slidingやlung pulseが認められないことは気胸を疑う重要な所見となる。
・また中心静脈穿刺などに伴う合併症として気胸が出現しうるため、手技のはじめと終わりにling slidingを確認することも重要である。
→ブラや皮下気腫では胸膜の動きが消失しており、穿刺後だけにエコースキャンを実施すると、気胸を合併したと思い込んで焦ってしまう。
・超音波による気胸診断の感度は90.9%, 特異度は98.2%である。
・診断のフローチャートは下記
・lung pointとは、気胸の境界面を表しており、lung slidingが画面に見え隠れする部位である、
→確定診断の根拠となる。
→診断の除外は容易であるが、lung pointがない場合には診断が困難となることがある。
→あくまでも簡便・迅速なモダリティの一つと考える。
b. 肺水腫、ARDSの診断
・diffuse multiple B-linesを見た時に考える
→diffuse multiple B-lineとは1肋間に3本以上のB-lineかつ、片側2カ所以上で両側に認める場合。
→含気の減少に伴いB-lineは本数を増やし、かつ互いに癒合しカーテンのように観察される。
c. COPD増悪と心不全の鑑別
・呼吸困難の症状が類似しており、かつ両者を合併していることもあることから診断に難渋することが多い
→COPD患者の20-30%に心不全を合併している。心不全患者の10-50%にCOPDを合併している。
①心原性肺水腫
・両側びまん性の肺水腫を呈する
→胸部X線よりも感度・特異度に優れる
・B-lineの本数からうっ血の重症度を判別可能であり治療反応性の指標とできる。
②COPD
・A-line+no PLAPSがCOPDの所見である
→いうなれば正常肺所見
→PLAPSは胸水とconsolidationが単独あるいは共存して観察される所見
→A-line+no PLAPSは正常肺、COPD、喘息を示唆する。
つまり両者の鑑別として、B-lineを認めずA-lineを認めることでCOPDの可能性が高くなる
Do you understand consolidation and shred sign on lung US?https://t.co/zTW5OFrcFh #FOAMed #Shred @westernsono pic.twitter.com/xgm8FwZV5C
— Robert Arntfield (@arntfield) June 17, 2016
・肺葉全体の無気肺となると、肺実質はあたかも実質臓器様となる。
e. 肺炎の診断
・呼吸依存性の浸潤影の動き
・air bronchogram
・外側、背側肺で胸水とconsolidationが単独あるいは共存して観察され、A-lineやB-lineではない所見はPLAPS(postero-lateral alveolar pleural sign)と呼ばれ、肺炎を示唆する
f. BLUE protocol
・心原性肺水腫の診断を感度97%, 特異度95%で行うことができる。
・まずはlung slidingの所見を確認
・そのあとは所見を
①A-profile:両側前胸部でA-line優位
②B-profile:両側前胸部でB-line優位
③A/B profile:片側A-line, 対側B-line
④C profile:consolidation
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【2.循環器エコー】
[経胸壁心エコーTTE]
・描出が難しい時には、
①呼吸を呼気後に止めてもらう
②体位を左側臥位にしてもらうと
描出が可能な場合がる。
a. プローブの位置と基本ビュー
・①や②のビューで斜め切りとなってしまう時は、肋間を1つ上にすることを考慮する。
・②の短軸像でプローブを心尖部や心基部に振ることによって、大動脈弁レベルや心尖部レベルを描出することができる。
・短軸像での各部位の名称は、機械的に上がanterior、下がinferior、右がseptal、左がlateralで、それらを組み合わせて6カ所に分けて呼称する。
http://illustrator-amy.com/2015/08/03/post-80/
https://download.lww.com/wolterskluwer_vitalstream_com/PermaLink/MD/C/MD_2017_12_01_TANAKA_MD-D-17-03337_SDC1.pdf
②壁運動
・hyperkinesis(過収縮)
・hypokinesis(収縮低下)
・akinesis(無収縮)
・dyskinesis
の4種類に上記の部位を合わせて表記する。
・severe hypokinesis on inferior wall
・diffuse hypokinesis on LVなど
③弁膜症(動画供覧)
(画像参照:http://www.hounanmidori-cl.com/btn04.html)
・AS大動脈弁狭窄
→心尖部四腔像を描出してからプローブを頭側に振って、心尖部五腔像として大動脈弁圧較差AVPGを測定する。
→大動脈弁通貨血流速度4m/sec以上あるいは、CWで得られた流速波形をトレースして平均圧較差が40mmHg以上であれば重症ASとなる。
・AR大動脈弁閉鎖不全
・MR僧帽弁閉鎖不全
(備考:猫の心臓の長軸像だが、人間のものと似ており、分かりやすい)
・TR三尖弁閉鎖不全
四腔像
→三尖弁逆流圧較差TRPGの測定により、右室圧の上昇(→体液貯留の程)を推定することができる。
→肺高血圧の指標ともなる。
→TRPG40mmHg程度が正常上限値である
[BCUとRUSH]
Bedside Cardiac Ultrasound
Rapid Ultrasound in SHock
①基本構造
②左室径・収縮能
③左室壁運動異常の有無
④右室径・収縮能
⑤IVC径と呼吸性変動
⑥心嚢液の有無
・心嚢液貯留は胸水貯留と誤られることがしばしばある。診断に迷う場合は、傍胸骨アプローチ左室長軸断面で左房の後方にある下行大動脈との位置関係を確認する。エコーフリースペースが下行大動脈の前方にあれば心嚢液、後方であれば胸水と診断できる。
https://www.jmedj.co.jp/files/item/ebook/482.pdf
http://tsunepi.hatenablog.com/entry/2018/03/22/000000
・RUSH
循環動態を①ポンプ②タンク③パイプの三段階で評価してショックの病態を鑑別する。
①ポンプ
・心嚢液がないかどうか
・左室収縮能は保たれているか
・右室による左室の圧迫がないかどうか(D-shape)
②タンク
・IVCの径及び呼吸性変動がどうか
・胸水、腹水の貯留を評価してもよい
[fluid responseの評価]
参考:https://drmagician.exblog.jp/24106425/
参考:https://www.jikeimasuika.jp/icu_st/161101.pdf
・上記のように前負荷の増加に応じて一回心拍出量が増加するが、前負荷がある一定レベルを超えるとむしろ一回拍出量は減少することも知られている。
・よって、一回心拍出量の増大が得られる前負荷の上限が輸液量の目安となってくる。
①CVP
・循環血漿量の予測指標としては不十分。
・その精密度は輸液の施行有無をコイントスで決めているのとほぼ同じ。
(Crit Care Med 2013; 41: 1774-81)
②ScvO2
・末梢組織の酸素利用障害によって、中心静脈の値であるScvO2が上昇する。
・ScvO2>70%が末梢循環不全の目安と考える。
③IVC径
・IVC径の変動によるfluid responsivenessの予測は様々な要因で偽陽性・偽陰性が生じる
・IVC径でカットオフ値を決めて定性的に評価するよりは、呼吸性変動の値(率)を定量的に評価するほうがまし。
④SVV
・動脈圧波形の呼吸性変動から算出される一回拍出量の変化
(循環血漿量が減少している状況では変動が大きくなる現象を利用)
・SVV>13で輸液反応性を期待する
・ただしSVVによるモニタリングは以下の状態を前提として用いる必要がある
〇不整脈がないこと
〇自発呼吸のないこと(人工呼吸器強制換気中であること)
〇一回換気量8mL/kg以上であること
⑤乳酸値
SSCGでも初期治療の指標となっており、乳酸クリアランス(初期値からの低下割合)が治療効果の指標とはなりうるが、組織の低酸素、低灌流を必ずしも反映しているわけではなく 、循環の指標として使うことは難しそう
→治療目標として乳酸クリアランス10%~20%(2hrごと)を目指すと生命予後が改善するかもしれない。
⑥PLR test(Passive Leg Raise test)
・測定方法
ⅰ. 45度上肢挙上からスタート
ⅱ. 患者に触ることなく、下肢を45度挙上する。
ⅲ. この状態で一分間待った後に心拍出量を計測(MAPの測定のみでは感度が低い)
ⅳ. 元の状態に戻して、心拍出量がもとの値に戻ることを確認(容量負荷という要因のみで拍出量上昇が得られていたことを確認)
・備考
ⅰ. PLRによる心拍出量の変化は、容量負荷による心拍出量の反応性を非常に正確に予測するが(特異度91%, 感度85%)、動脈血圧の変化の効果を評価すると、PLRテストの特異度は許容できるが感度は乏しかった(特異度83%, 感度56%)
→血圧は血管抵抗という因子によっても規定されているためカテコラミン使用下では不正確な指標となってしまう。
ⅱ. 頭蓋内圧亢進の可能性や、腹腔内圧上昇、腹部・下肢に疼痛がある状況では施行困難。
ⅲ. 一回心拍出量の増大が得られる前負荷の上限が輸液量の目安となってくる。
⑦Fluid Challenge
頭蓋内圧亢進患者や、疼痛、あるいは様々な理由でPLRが施行出来ない患者においては、実際に少量輸液負荷を実施して心拍出量の変化を確認。
・一回拍出量の測定
→左室流出路径(長軸像のAorta径)の2乗と平均流速に比例する。
⑧CRT:Capillary Refilling Time
ANDROMEDA shock trialより(http://hospitalist-gim.blogspot.com/)
・CRT:右示指末端の腹側で、スライドグラスを用いて10秒間、皮膚が白くなる状態で圧迫し、元の皮膚色に戻るまでの時間を計測。
・3秒以上を異常と定義する.
・CRTを測定することは、上記のような乳酸値のフォローによるものと同じ精確さで治療をモニタリングできる。
・ただしtrialでは30分毎にCRTを計測していた。
・またresponderに対しては、CRTが正常化するまで、その都度500mLの補液負荷をかけていた。
⑨TPTD
Trans Pulmobary ThermoDilution
(参考:https://drmagician.exblog.jp/24142691/)
・中心静脈カテーテルから冷水を注入し、動脈カテーテルによって動脈血の温度変化を測定することによって心拍出量を計算する。
・右心カテーテルによる熱希釈法と同様の原理を用いている。
・TPTD study(敗血症のTPTD管理 vs CVP管理)の中間報告では、人工呼吸器管理日数はTPTD群で有意に短縮された。
・カテコラミン投与期間についても,TPTD群ではCVP群と比較して日数が短縮される傾向にあった。
(追記:ただし、そもそもCVPの指標としての有用性が確実でないと分かったいま、「CVPよりも優れている」という結果にどれほど意味があるかは疑問である。)
・デバイスを新たに導入する必要があるが、それにより主に下記の指標を測定できる。
a. GEDV
・心臓拡張末期容量指数
→心拍出量は左室拡張末期容量に依存するというフランクスターリングの法則に基づいて有用性が生まれる。
・正常値は680~800mL/m2
→輸液負荷の前後でモニタリングすることでrespond/non-respondを評価できる。
b. EVLWI
肺血管外水分量指数
→肺水腫の程度を評価することが出来る。
・正常値は3.0~7.0ml/kg
【輸液療法のまとめ】
上記の指標のうち、現在エビデンスがしっかりしているのは、
①PLRによるresponder/non-responderの評価
②SVVによるresponder/non-responderの評価
(ただし、不整脈なし・機械換気中などの条件あり)
③乳酸値、CRTによる治療反応性の評価
であることが分かった。
これを踏まえて、総論的に輸液療法をまとめると、
[血栓の評価]
・ICUはDVTリスクが高い。
・PEと診断された患者の70%にDVTが認められる。
・DVT診断におけるエコー検査の感度・特異度は造影CTと同等であり、特にICU患者などでCT検査の移動が容易でない患者に対しては有用である。
a. DVTの型
①中枢型
→膝窩静脈よりも中枢(腸骨型、大腿型)
→中枢型DVTは肺塞栓に関連が強く、臨床上より重要である。
→検査前確率が低い患者や緊急時の時間的制約のある患者では、まずは中枢のみ評価する。
②下腿型
→膝窩静脈よりも末梢
→DVTはヒラメ静脈を初発とすることが多い。
b. DVTの評価
①Wells score for DVT
高:53% 中:17% 低:5%
・低リスクかつ中枢型の血栓がない場合
→さらなる検査や治療は不要
・中リスクの場合
→whole-leg USを施行する
→or proximal USを施行し、血栓がない場合には1週間程度あとにproximal USを再検する。
・高リスクの場合
→whole-leg USを施行する
→or whole-leg USを施行or proximal USを施行し、血栓がない場合には1週間程度あとにproximal USを再検する。
②D-dimer
D-dimerの測定は外来患者でDVT除外のために用いるのは有用であるが(感度が高い)、ICU患者では敗血症や凝固障害など様々な要因でD-dimerが上昇しており、DVT診断のために測定する意義は乏しい。
d. 評価の実際
・まずはコンベックスプローブで腹部大動脈から総腸骨動脈奮起部を目印として、その背側の左右総腸骨静脈を描出する。
・その後末梢に進み、総大腿静脈を観察する。
・血栓がはっきりと描出されないことがあるので、以下の手順で確認する
①圧迫法
→プローブで直接静脈を圧迫する
→通常であれば、静脈の圧縮所見を認めるが、血栓の存在下では徐脈が圧縮されない
②ミルキング法
→観察部位よりも末梢の筋を用手的に圧迫し、中枢側への血液逆流をカラードップラーで確認する
→血栓の存在下では、ミルキング時の血流が低下または消失する。
http://www.jseptic.com/journal/30.pdf
・中枢型DVTの抗凝固療法はヘパリン5000単位を静注後、APTT1.5-2.0倍を目標に10000-15000単位/dayを持続静注する。
・急性期を脱すれば、DOACの内服などへ切り替える。
・下腿型DVTにおいては上記のリスク因子が高ければ開始を検討する
・出血リスクについてを常に念頭におく
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【3.腹・骨盤部エコー】
・具体的な画像や所見については、以下のサイトを供覧のうえ参考にしていただきたい
https://www2.khsc.or.jp/materials_collection/08/08_01.pdf
[肝・胆・膵]
<ICUで遭遇しやすい状況>
a. 腹部膨満
・腹水による膨満なのか、腸管拡張による膨満なのかを判断するのがエコーの役割である。
b. 肝酵素上昇、黄疸
・頻度として薬剤性が高い
・長期間の高カロリー輸液により脂肪肝となっている
・セフトリアキソンによる偽性胆石症
・総胆管結石嵌頓による胆管拡張(基準値6mm)を見逃さない。
・心不全によるうっ血肝の可能性もある。
c. 発熱
①胆嚢炎
胆嚢腫大:短軸径35mm以上
胆嚢壁肥厚:4mm以上
・ただし、長期絶食患者では胆嚢が腫大していることが多い
・特異度の高い所見は、sonographic murphy sign(プローブ圧迫による疼痛)である。
②肝膿瘍
・ステロイド投与中などの免疫低下例ではまれならず経験される。
・肝酵素上昇が軽度にとどまるため、薬剤性肝障害として看過されないように注意する。
[泌尿器のエコー]
・水腎の描出による閉塞性尿路障害の検出が重要である。
・ただし、水腎症の検出率はCTに劣り、またICUでたびたび遭遇するAKIにおいても腎後性AKIの頻度が低いことから、その役割は限定的なものとなる。
・尿管結石の診断には、水腎症の間接所見に頼るばかりではなく、結石を直接描出することが可能な場合もある。
→尿管膀胱移行部、腎盂尿管移行部などの生理的狭窄部位を中心に観察を行う。
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【4.眼エコー】
・視神経鞘と頭蓋内とくも膜下腔には交通があり、頭蓋内の変化に伴い視神経鞘の径(ONSD)が変化する。
・頭蓋内圧が亢進すると視神経鞘が拡大する。
→乳頭浮腫が起きるよりもはるかに早く変化する。
[計測の手順]
①臥位または軽度のヘッドアップで(体位の影響はあまり受けない)
②上眼瞼にゼリーを塗布し、眼球の圧迫を避けながら、リニア型プローブを操作する。
③黒色の帯状の構造物を見つけたら(やや外側~正中で同定されることが多い)、速やかに画面をフリーズさせ、エコー時間を極力短くする。
④眼球から3mm後方でそこから垂直に両側硬膜の内側を測定する。
・5mm以下で正常、5.7mm以上で頭蓋以内圧亢進と捉える。
川良健二
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