急性心不全(INTENSIVIST VOL.2NO.4)の重要項目まとめ

Pocket

目次

1. 【急性心不全総論】
2. 【急性心不全の病態生理】
3. 【急性心不全の心エコー】
4. 【急性心不全と身体診察】
5. 【急性心不全の治療総論】
6. 【急性心不全とバイオマーカー】

 

 

 

その他の巻についてもこちらをご覧ください↓

INTENSIVIST 重要項目まとめ

 

——————————————————————–

 

【1.急性心不全総論】

・心不全とは、病名ではなく単なる結果としての「状態名」「症候群」に過ぎない
・心不全症例に遭遇した時には、その「状態」への対処のみに専念しがちだが、同時にその「原因」を追究し、解決策を練る必要がある。
・なかでも、急性心筋梗塞の診断と介入は最も重要である。

 

[予後予測因子]
・院内死亡率は4-7%
・2-3か月以内の再入院率は約30%
・1年死亡率は約30%

a. 身体所見
・入院時に血圧が高い場合、高くない群に比べ死亡率が低い
・患者ごとのEFに関わらない

b. 合併症
・冠動脈疾患、脳血管障害、COPD、がんの既往歴など予後不良因子

c. 検査所見
・QRS>120msecは長期予後不良の予測因子
・急性心不全で入院した患者の6.2%にトロポニンの上昇を認め、非上昇群にくらべ死亡率が高かった。
・低Na血症(Na<135mEq/L)はそうでない群と比べ死亡率が高い
・BNPが高ければ高いほど予後は悪い。退院時のBNPで長期予後を予測
・急性心不全患者の50%は収縮能が保たれているHFpEFであり、長期予後はHFrEFと変わらない

 

[予後予測ツール]
・MESSI AHF score
40%の低リスク患者と10%の超高リスク患者を同定可能な新スコア
(http://meessi-ahf.risk.score-calculator-ica-semes.portalsemes.org/)

・Seattle Heart Failure Model
1年後、2年後、5年後の予測死亡率、期待される生存期間が算出される。

(https://depts.washington.edu/shfm/non_health.php)

 

 

 

——————————————————————–

 

【2.急性心不全の病態生理】

[原因・悪化要因]
a. 心臓由来
・虚血、急激な血圧上昇、弁膜症
・心房細動などの頻脈性不整脈
→不整脈自体による心不全と、頻脈誘発性心筋症とがある。
・心筋炎
・心筋症(拡張型、肥大型、高血圧性、アルコール性、DM性、頻脈誘発性、敗血症性)

b. その他
・感染症
・貧血、内分泌疾患(甲状腺機能低下・亢進、褐色細胞腫)
・妊娠(循環血液量増加、産褥心筋症)
・ビタミンB1欠乏

 

[僧帽弁逆流と心不全]
・全収縮期雑音を聴取

・急性僧帽弁逆流の原因は
AMI、感染性心内膜炎、腱索断裂

・急性MRの場合、逆流の重症度と比して左房・左心の径拡大が少なく、EFが保たれている場合が多い

・慢性MRでは、ある程度までは代償機構が働き、左室・左房が拡大しながらバランスを保つが、進行して重度になると、慢性的な容量負荷になり心筋リモデリングの過程で収縮力・EFの低下に陥る

 

[HFrEFの病態]
HFrEF:Heart Failure with reduced Ejection Fraction
→収縮能の低下した心不全(EF<40%)

① 収縮能が低下すると神経ホルモン性因子(RAS系、カテコラミン、バソプレシン)が活性化し、それによりナトリウムと水分の貯留が引き起こされる。
② 神経ホルモン因子及び炎症性サイトカインの影響(心筋障害作用)により、収縮能はさらに低下する。
③ 左室充満圧の上昇により、肺静脈圧・肺毛細血管圧上昇が起き、さらにサイトカインの働きによる血管透過性の亢進により、肺うっ血が生じる。
④ 末梢血管収縮も同時に起きていることから、循環低下に至る。

 

[HFpEFの病態]
HFpEF:Heart Failure with preserved Ejection Fraction
→収縮能の保たれている心不全(EF>50%)

・収縮能ではなく、拡張能の低下に原因があるとされる。
・拡張不全があると、前負荷のちょっとした増大でも、左室の弛緩能が悪いので左房圧の上昇→肺毛細血管圧の上昇が起きてしまう。

拡張不全は以下の2つに分けて考える
① 左室の心筋自体が弛緩して能動的に血液を引き込む過程が障害されることを心筋スティフネスの上昇と表現する
② 左房の収縮による受動的な血液流入が障害されることを心室スティフネスの上昇と表現する

・拡張不全のない左室は能動的に拡張することで血液を引き込むが、拡張不全があると、血液の流入を左房の収縮に依存することになる
→拡張不全+心房細動の合併で急激に心不全が悪くなることがある。
・心筋虚血で最初に失われるのが拡張能である。そのほか肥大心(高血圧、心筋症)などが原因となる。血管や心筋の硬化が拡張能低下の原因となる。
・日本の現在の保険治療内で、生命予後を改善させる治療薬はない
→ARNIなどの新しい治療薬が治験段階

 

[右心機能]
・左心不全に引き続いて右心不全が起きることが多い
・純粋な右心不全の原因として、肺性心・肺塞栓・原発性肺高血圧症、三尖弁逆流・心房中隔欠損、右室梗塞による心筋の障害などがある。

 

[ACSによる心不全]
・新規発症の急性心不全の42%はACSによるもので、その半分はST上昇型心筋梗塞STEMIである。
・慢性心不全の急性増悪の23%がACSを伴う・
・ACS以外にも心筋炎を忘れてはならない。

 

[不整脈]
・心房細動では、心室への血液流入が減少し、心拍出量の減少から急性心不全となることがある。
・また心拍数の増加や心拍出量の減少から、心筋虚血に至ることがある。
・逆に、心不全や心筋虚血の結果として、心房細動やそのほかの不整脈が惹起され、心不全をさらに悪化させることがある。

 

 

 

——————————————————————–

 

【3.心エコー】

・弁膜疾患があればその重症度及び基礎疾患を精査する
・壁運動異常はACSを含む虚血性心疾患の存在を示唆する。
・心筋疾患では壁厚や壁運動異常などを精査する
・心嚢液貯留などの閉塞性ショックの徴候もチェックできる。


https://www.takamatsu.jrc.or.jp/archives/010/201801/救急外来でのエコーの有用性.pdf

 

[収縮機能]
a. 駆出率(EF)
・左室拡張末期容量(LVEDV)に対する一回拍出量の比で表される。
・一回拍出量は左室拡張末期容量と左室収縮末期容量の差である。
→(追記)つまり、心室内に充満した血液を何%拍出できるかを表している。

b. 一回拍出量
左室流出路の断面積(長軸像のAorta径を直径とする円の面積)に波形の積分値をかけたもので表現できる。

c. 左室内径短縮率
左室拡張末期径(LVDd)と左室収縮末期径(LVDs)の差をLVDdで除した値
→(追記)つまり、心室が一番拡張している時から、どれくらい収縮できるかを表している。

 

[左室拡張機能]
・心不全症例のうち、40%強が、左室の収縮能が保たれているものの拡張機能が低下した状態であり、拡張能の評価が重要である。
・左室拡張機能指標として経僧帽弁血流波形(TMF)やE’、E/E’、左室拡張末期容積が挙げられるが、単独で正確に評価する指標に乏しく、これらを測定し総合的に判断する必要がある。

[TMF]
・パルスドップラーで、僧帽弁の両弁尖間にサンプルボリュームを置いて測定を行う。
・左室が拡張すると、左房に比べて相対的陰圧となり、圧較差が生まれることで僧帽弁が解放され、血液が流入する
この際の波形がE波(拡張早期波)となる。
・その後、拡張早期の血液流入によって左室圧が左房圧と等しくなると左室への血液流入はいったん減少するが,洞調律であれば、左房収縮により左房圧が上昇することで僧帽弁が開放し、左房から左室に血液が流入して、 A波(心房収縮期波)が発生する。

 

① 正常型(上図A)と弛緩障害型(上図B)
・左室内圧の上昇はない
・Bでは、左室への流入障害及び心筋スティフネスの上昇によって、左房が代償的に収縮を強めている様子がわかる(E波が減でA波が増)
・AではE/A>1、 BではE/A<1となる

② 偽正常型(上図C)
左室弛緩能低下(心筋スティフネスの上昇)に加えてコンプライアンスが低下(心室スティフネスの上昇)すると、左室拡張末期圧が著明に上昇し、左房の後負荷となり、A波が減高する。僧帽弁開放時の左房−左室交差圧(左室充満圧)も上昇することからE波は増高する。このように、左室弛緩異常にコンプライアンス異常が加わった状況では,左室拡張機能異常が進行しているにもかかわらずTMF がE/A>1を呈し、正常パターンとの区別が困難になる。

・valsalva負荷によって前負荷を減少させた際に、E波が減じA波が高くなれば偽正常型、E波もA波も減じE/A比が変わらなければ正常型。

③ 拘束型
・② 偽正常型の病態がさらに進むと、 E波はさらに増高しE/A>2となる
・左室拡張末期圧の著明な増大が示唆される。

 

[E/Aを用いた評価の実際]
・正常型と偽正常型など判別が難しく、また年齢や弁膜症の影響などを強く受けることから、単独での評価は難しい
・加齢によりE波は減高、A波は増高し,E/A>1であった波形が55〜60 歳くらいからE/A≦1へと移行する。
・その他の指標を組み合わせて評価する必要がある。

 

[E/E’]
・心尖部からみた僧帽弁輪運動は左室の長軸方向の収縮および拡張を反映していることから、拡張期の移動速度は左室拡張能の評価に用いられる。
・心尖部四腔断面において左室側壁側あるいは心室中隔側の僧帽弁輪にサンプルボリュームをおき組織ドプラモードで観察すると、拡張早期波(E’)が記録される。
・心室中隔側e’を用いた基準では、左室充満圧はE/E’≦8では正常,E/E’≧15では上昇した状態と判断される。
・8<E/E`<15であれば肺動脈収縮期圧の計測などを行って判断しなければならない。

参考:(https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/45/7/45_753/_pdf, https://hitoridesh.exblog.jp/22249536/

 

 

 

——————————————————————–

 

【4.急性心不全と身体診察】

・心不全はうっ血と低心拍出による複合的な症状からなる症候群であり、一つの検査所見や身体所見を持って心不全の診断、とくに除外をするのは困難であることが多い。
・例えば、慢性心不全ではラ音聴取しない例が80%にも及ぶ
・「エコーでEFが正常」、「ラ音の聴取がない」「X線で肺うっ血がない」「頚静脈怒張がない」「Ⅲ音がない」などの理由だけで心不全を否定できない。BNPについても同様。

 

[診断基準]
・フラミンガム診断基準
・Ⅲ音の聴取は血流量の増加を示唆。心不全に対する特異度99%

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/101/2/101_338/_pdf

 

[病型分類]
・Forrester分類はswan-ganzカテーテルにより肺動脈楔入圧を測定しなければならず、またモニタリングを臨床指標に頼った群と比較して予後に差がなかった。

・現在広く使われているのは、Nohria Stevenson分類である。

https://med.toaeiyo.co.jp/contents/cardio-terms/test-exam-diagnosis/4-70.html


http://hospital.tottori.tottori.jp/files/20170825093129.pdf

 

a. 低灌流の所見
① 脈圧比の低下(収縮期血圧-拡張期血圧)/収縮期血圧<25%
② 交互脈(動脈の拍動が一拍ごとに強弱)
③ 症状を伴う低血圧
④ 四肢の冷感
⑤ 意識状態の変化

b. うっ血の所見
① 最近の起坐呼吸
② 頚静脈怒張(右で観察、ベッドは40°程度挙上。CVP>12mmHg以上を示唆)
③ ラ音
④ 浮腫
⑤ 腹水
⑥ 肝頸静脈逆流(腹部右季肋部下部を圧迫することにより、頚静脈脈拍動レベルの上昇)

・おのおの一つでも認められれば陽性となり、分類される。

 

 

 

——————————————————————–

 

【5.急性心不全の治療総論】

[クリニカルシナリオ]

CS1
・HEpEFであることが多く、拡張能の低下や血管機能の低下が原因と考えられる。
・NPPV(非侵襲的陽圧換気)と硝酸薬による血管拡張・降圧が主な治療となる
・体液過剰があれば利尿を投与

CS2
・NS分類ではwet&warmに該当
・体液貯留に対しては利尿薬

CS3
・末梢循環不全を伴っており、NS分類でのcoldにあたる。
・意識障害、チアノーゼ、四肢冷感、冷汗、乏尿などの有無を確認する。
・DOBなどの強心薬とノルアドレナリンなどの血管収縮薬を使用する。
・薬物治療が奏功しないときにはIABP大動脈バルーンパンピングの挿入を検討
・原因としては、慢性心不全の急性増悪やACSや重症心筋症、弁膜症のこともある

 

[うっ血=左室充満圧の上昇]
・血行動態的うっ血=左室充満圧の上昇
・臨床的うっ血=浮腫など
・通常は、血行動態的うっ血をきたした後に、結果として臨床的うっ血がくる
→ただし、肺動脈カテによるPCWPの測定をルーチンで行うことに意義はない
・慢性心不全においては、全身のうっ血所見(=右心不全症状)が高い右房圧を示唆し、それが左室充満圧と高く相関している。急性心不全ではその限りではない
・エコー検査を用いて、左室充満圧を推測する(上述「心エコー」参照)

 

[末梢循環不全]
・心拍出量(CO)の低下や全身血管抵抗(SVR)の上昇などが原因として挙げられる。
① BP =CO × SVR × 定数
② SVR=(MAP-CVP)× 80 ÷ CO

・これらの値は心エコーとモニターから同定可能であり、SVRが高い症例に対しては血管拡張薬を使用する。

https://www.shizuoka-med.jrc.or.jp/dat/files/sect/file/lab%20news/labnews24.pdf

 

[NIV:CPAPや非侵襲的陽圧換気]
・CPAPを行うと、胸腔内圧が上昇し静脈灌流量が減る
→左室後負荷と右室前負荷の改善
→右室の後負荷は胸腔内圧の上昇によって増大する
→肺血管抵抗の上昇により、左房への血液流入量が減少し、左室の後負荷も減少する。

・意識消失、呼吸困難が強く協力が得られない、血行動態が悪い患者などは気管挿管を考慮する
・NIVを開始して1時間以内に治療効果測定を行い、効果がないと判断された場合には気管挿管を考慮する

 

[IVCと人工呼吸器管理]
PEEPにより胸腔内圧が上昇し、IVCは通常よりも怒張する
ΔIVC は、異なる人工呼吸器設定における輸液反応性を予測する能力が限られていることを示している。TV≧8 mL/kg かつ PEEP≦5cm H2O の患者では、ΔIVC は輸液反応性の正確な予測因子であったが、TV<8 mL/kg あるいは PEEP>5 cmH2O の患者では ΔIVC は不良な予測因子であった。
https://knight1112jp.at.webry.info/201808/article_67.html

 

[モルヒネ]
・静脈拡張による前負荷軽減と動脈拡張による後負荷軽減の作用がある。
・心拍数低下によって呼吸困難感の改善がみられる
・ESCガイドライン上では、不穏・呼吸困難などがある場合に使用を考慮するとなっている。
・2.5mg~5mgを投与
・(追記)フェンタニル1mL程度のワンショットでも代用できるか?

 

[入院後の薬物治療]
もともと内服していたβブロッカーやACE阻害薬は可能な限り継続する
→腎機能障害があればACEは中止

 

a. 利尿薬
・初期治療において、症状があり循環血液量が過剰になった病態に対して利尿薬は有効
・ただし静脈内投与により、GFRの低下が報告されており、腎輸入細動脈に対する収縮増強作用が示唆された。
・ボーラスよりも持続投与のほうが抵抗性による作用減弱が起きづらいと報告がある。
・利尿薬の投与により死亡率が上昇するという報告がある。
・血圧低下症例では、慎重に

 

b. 強心薬
強心薬はドブタミンとミルリノン
→ドブタミンは拍出量が増える分だけやや血管を拡張する
(血圧は上昇しないことから、血圧維持のためにはノルアドレナリンを使用することもある)
→ミルリノンは積極的に血管を拡張させる。肺血管も拡張する。
→ただし、予後改善効果はなく不整脈も増えることからむやみに使用しない
→wet & coldで血圧がやや低いような症例でも、血管拡張でCOが増加すれば末梢循環は改善することから、適応を厳密に見極める。
→ESCではsBP>90mmHgであれば低血圧に注意しながら血管拡張薬の使用を推奨している。

・単独で強心作用が期待したほどではない場合にはドブタミンに低用量のミルリノンを併用することも可能。

 

[昇圧薬]
・昇圧薬はノルアドレナリンを使用
→ドパミンに比べ死亡率を低下させた。
→腎保護作用でも勝る

・ノルアドレナリンで昇圧が難しい時はバソプレシンの投与を検討する。

hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jc_20180721.pdf


https://www.jikeimasuika.jp/icu_st/161025.pdf

 

[血管拡張薬]
ニトログリセリン
・硝酸製剤として動脈よりも主に静脈を拡張させることによって左室充満圧を低下させる
(追記cf.:ニコランジル(シグマート)は冠動脈を選択的に拡張させる)
・ミオコールスプレーなどでローディングした後に、ミリスロール原液などを3mL/hrで開始し、順次増量していく。
・数時間~24時間以内に効果が減弱していくので適宜増量する。

 

カルペリチド(hANP)
・腎保護作用、心筋保護作用を期待して汎用されている
・再入院率が減少したが、腎保護作用はなし
・追記:急性心不全に対するハンプ使用で死亡率2.13倍
https://drmagician.exblog.jp/23530750/

 

[慢性期の治療薬]
・慢性期には死亡率の低下や再入院率の低下、症状の軽減などの目的を果たす必要がある

a. ACE阻害薬
・入院率と死亡率を低下させる。
・6か月死亡率はプラセボ群で44%、エナラプリル群で28%
・CrとKの上昇がないかどうか、モニタリングが必要
・急性心不全では、腎機能障害や血行動態が落ち着いてからの導入でよい
・ACE阻害薬とARBの比較試験では、ARBの方で死亡率が高く、突然死がやや多かった
→第一選択をACEとして、空咳などが強い場合に変更を考慮
→またACEにARBを追加して使用しても良い

 

b. βブロッカー
・死亡率を減らす
・患者の症状改善感も高まる
・ACE阻害薬導入後に血圧が落ち着いた段階で退院前に開始する。その後外来診療で漸増していく。
・心不全が急性増悪した場合にも、末梢循環が保たれている限りは中止しなくて良い

(追記:上記2剤に加え、スピロノラクトンもK高値や女性化乳房などのが副作用を鑑みながら可能な限り導入する)
http://www.nishiizu.gr.jp/intro/conference/h29/conference-29_14.pdf

 

[心腎症候群]
・Cre 0.3mg/dl程度のわずかな上昇でも予後が悪くなることが知られている。
・AHF患者の1/3がAKIを発症すると考えらえる。
・CKDがAHFやAKIの最も重要なリスクとなる。
・AKIはたとえ一時的なものでも予後に影響する
・過剰な利尿により血管内脱水が生じたら利尿薬は中止する
・腎機能増悪例ではACE阻害薬の中止も検討
・(追記)ループ利尿薬ではBUNの上昇が惹起される
・(追記)トルバプタンに対するresponderではBUNの減少を認める

 

a. 分類
・心臓→腎臓の順で悪くなるのか、腎臓→心臓の順で悪くなるのかによって、また急性の経過なのか、慢性の経過なのかによって4つのtypeに分けられる。
・AHForCHF→AKIorCKD
・AKIorCKD→AHForCHF
・全身性疾患に伴い二次的に出現するものを加えて5つのtypeに分けられる。

b. 病態
① 神経ホルモン性因子の異常
→心不全ではRAS系やADHの分泌が亢進しており、腎動脈を含めて全身の血管を収縮させている。
→腎灌流が低下し、腎機能悪化と体液貯留を同時にもたらす

② 腎灌流圧の低下
利尿薬の過剰投与や心拍出量の低下により、有効循環動脈血液量が低下し腎機能が低下する。

③ 腎うっ血
上記の原因以外にも、心不全により腹腔内圧(IAP)が上昇し、腹部コンパートメント症候群の時のように(4.外傷の【腹部コンパートメント症候群】を参照)、腎静脈圧が上昇することにより、GFRの低下が起き(追記:後負荷増大に例えると分かりやすい)、腎機能低下に至るものと考えられる。
腎静脈圧の上昇時にはRAS系が亢進することも分かっている。

 

c. 治療
・AHFによるAKIは、主としてAHFによる血行動態の異常に起因していることから、AHFのマネージメントを進める。
・ドブタミンは短期予後を改善するが、長期予後を改善しない
・ただし腎保護目的に、臓器血流を保つためには必要と考えられる。血圧を保つことも重要である。
・ノルアドレナリンについても、腎血管を収縮させGFRを低下するという考えよりも、現在は、腎血流を増加させGFRを上昇させる可能性が指摘されているので、組織灌流低下が示唆され、血圧が維持できない場合には投与を検討する。

 

・AKIに対するフロセミド投与の実際
・GFRに応じて通常量の2~5倍を投与する。
・即効性のあるフロセミドが使用されることが多い。
→経静脈投与が望ましい。
→慣習的に20 mgくらいから開始し,反応不良であれば40 mg,80 mgと倍量に増量していくことが多い。
→透析の適応などを判断しなければならないときは,はじめから100 mg,200 mgを使用して構わない。
→高濃度フロセミド投与では,聴力障害の副作用が起こりうる。
→→急速投与で起きやすい。
→→投与時間を数分以上,できれば30分くらいとるのが望ましい。
田中竜馬 編「集中治療999の謎」メディカル・サイエンス・インターナショナル
・200mgでも反応がない場合には、緊急透析を考慮する

 

・AKIと血液浄化療法
① 開始基準
敗血症に対する大量補液のエビデンスに伴うhypervolemiaや、肺保護的換気による高炭酸血症の容認に伴うアシドーシスの進行、潜在的副腎不全に対するステロイド投与のエビデンス(ADRENAL)
などから、より早期の血液透析が検討される機会が多くなっている。


https://www.nagoya2.jrc.or.jp/content/uploads/2018/01/7e9a8f666a5e58faf46e713d713d8d0c.pdf

追記:ただし、最近の論文データによれば、腎代替療法のearly/late導入で予後に差がないことが分かっている。


http://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20160614Nagai.pdf

[右心不全]
a. 原因
・左心系と同じように、後負荷と前負荷に分けて考えると分かりやすい
・後負荷の増大とは、遺伝性・膠原病などによる肺高血圧と、左心不全による肺静脈性肺高血圧症による
・前負荷の増大(容量負荷)とは、三尖弁閉鎖不全や肺動脈閉鎖不全などの弁膜症や心房中隔欠損
・負荷増大に加えて、右冠動脈近位部の閉塞による右室梗塞も急性右心不全の原因となる。

b. 発症機序
・右室の壁は薄く、拡張コンプライアンスは大きくとられているが、圧負荷には非常に弱い構造となっている。
・後負荷増大に対して、後負荷ミスマッチを起こし、右室が拡張すると三尖弁閉鎖不全が起き、拍出量の低下・容量負荷に拍車がかかる。
・右室の容量負荷が増大すると、心室中隔が左室側へ変位し(D shape)心臓全体が拘束する。

・肺塞栓の一例

http://www.mochida.co.jp/dis/guidance/electrocardiogram/a97.html

 

[右心不全の診断]
a. 臨床症状
・全身浮腫、肝腫大、頚静脈怒張、胸水・腹水
・Ⅱ音の分裂、ⅢⅣ音を聴取
・第四肋間胸骨右縁周辺を最強点とした収縮期雑音(三尖弁閉鎖不全)
・心エコーでEFが保たれている場合にはHFpEFと間違えることがあるので注意

b. 胸部X線
・右房拡大に伴い、右2弓が拡大する
・肺動脈性高血圧症では近位部の拡大と遠位部の血管影が減少する
・肺塞栓では閉塞した肺動脈の支配領域の肺野の透過性が亢進する。

c. 心電図
・V1~V3の陰性T波
・右脚ブロック
・右軸偏位
・右房負荷所見(Ⅱ Ⅲ aVFのP波増高)

 

[右心不全の治療]
・循環動態の維持のため、急速輸液や強心薬の使用を試みる
(ただし容量負荷がなく、低灌流の場合)
・酸素投与(ただしCOPDのCO2ナルコーシスに注意)
・利尿薬の投与
→左心不全でhANPの使用が良いとされているかもしれないが、右心不全に対する効果は確立されていない
→(追記:左心不全でも微妙→ハンプ使用で死亡率2.13倍

・ACE阻害薬は肺動脈拡張をもたらすので用いても良いと考えられるが、エビデンスはない。β遮断薬・アルドステロン拮抗薬も同様にエビデンスなし

 

[右心不全に至る主な疾患]
a. 急性肺塞栓
・呼吸困難、胸痛で発症。発熱や喘鳴も
・動脈血ガスではPaO2とPaCO2がどちらも低下する
・心電図では右脚ブロック、右軸変異。重症例ではⅡ Ⅲ aVFのST上昇
・診断は造影CTで血栓を見つけること
・治療は抗凝固療法。抗凝固が禁忌の場合には下大静脈フィルターを考慮するが、侵襲的であり慎重に
・循環動態の管理にはカテコラミン・強心薬を用いてもよい

b. 右室梗塞
・心拍出量の低下、血圧低下、脈圧低下、静脈怒張
・心電図ではⅡ Ⅲ aVFのST上昇。ミラーイメージでV5V6のST低下
・右室梗塞を疑う場合には右側胸部誘導をとる
→V2R~V4RのST上昇で疑いが強くなる
・右冠動脈近位部の梗塞では、徐脈性不整脈の出現もある
・治療としてはPCIを即座に行う
・硝酸薬は静脈系が拡張し拍出量がさらに低下する。

 

 

 

——————————————————————–

 

【6.急性心不全とバイオマーカー】

[BNP]
・急性心不全発症の比較的初期から血中濃度は高値となる
・利尿作用、RAS系の抑制、交感神経の抑制、血管拡張など、心血管系の保護に働く
・BNP測定の有効性については、あるRCTでは肯定的であり、もう一つでは否定的であった。
・身体所見や心エコーに加えて、あくまでも補助的に使う
・ただし、喘息やCOPDに合併した心不全の場合に、呼吸困難の原因疾患として診断にたどり着かないことが予想されるが、その際にBNP測定が有用となる。


http://www.asas.or.jp/jhfs/topics/bnp201300403.html

・BNPを頻回に測定しながら行う、BNPガイド下心不全治療は有用性が証明されていない。
・実際の使用の仕方としては、入院時と退院時のBNPを比較し、その後の外来知治療に生かすなどの使い方がある。
・腎機能障害や敗血症、肺塞栓、ARDSなどではBNPが上昇する。

 

[トロポニン]
・急性心筋梗塞のマーカーとして必須
・心筋梗塞以外にも、心筋挫傷や心筋炎などでも上昇
・腎機能障害でも上昇する。
・血中トロポニン値は心筋梗塞発症3‐4時間で上昇し12‐18時間で最大値を示す。
・慢性心不全などの持続的心筋障害を反映して、トロポニンが陽性となることがある。
・慢性心不全の急性増悪時のトロポニンは」血行動態や心機能の悪化を示唆する。

 

 

川良健二

その他の巻についてもこちらをご覧ください↓

INTENSIVIST 重要項目まとめ

 

前の記事
次の記事
Pocket

Leave a Comment