術後管理(INTENSIVIST VOL.4NO.2)の重要項目まとめ

Pocket

目次

1. 【術後呼吸不全】
2. 【術後の出血】
3. 【術後心房細動】
4. 【術後鎮痛】
5. 【術後の発熱と感染】
5. 【ステロイドカバー】

 

 

 

その他の巻についてもこちらをご覧ください↓

INTENSIVIST 重要項目まとめ

 

——————————————————————–

 

【1.術後呼吸不全】

[定義]
術後呼吸合併症:Post-operative Pulmonary Complication
無気肺、肺炎、肺水腫、呼吸不全などが含まれる
→なかでも術後呼吸不全とは
① 術後48時間以内に抜管できない
② 抜管後、再挿管が必要となったもの

 

[発症機序]
換気血流比(V/Q)不均衡
麻酔薬や疼痛の影響による横隔膜機能不全、下側肺の低換気などにより、無気肺の形成、機能的残気量の低下が起きる
→多くの場合、無気肺は自然軽快するが、重篤な術後呼吸不全の第一歩となる。
→機能的残気量の低下や無気肺の形成は麻酔導入直後からはじまり、術後24-48hrで最大となる。術前の数値に戻るまでには1-2週間かかる。上腹部の手術でより顕著。
POD1,2で低酸素血症が最も悪化する(追記:術後酸素投与を翌日まで行う理由がやっとわかった)

 

[リスクファクター]
a. 患者因子
・60歳以上
・COPD、喫煙
・うっ血性心不全
・SAS
・上気道感染
・低栄養

b. 手術部位
手術部位と横隔膜との距離が近ければ近いほどリスクが高い。
具体的には
・胸部手術、上腹部手術
・脳神経手術、頭頚部手術でPPCのリスクが高い

c. 手術時間
3hrを超える、あるいは緊急手術はPPCのリスクが高い

 

[予防]
a. 術前
・術前の禁煙は、(低リスク手術ではPPC発症の有意差を見出せなかったものの)、1194例のメタ解析ではPPC発症を有意に減少させたと結論づけている。
・術前の禁煙期間は4週間程度→術後の禁煙にもつながる

b. 術中
・硬膜外麻酔のPPC予防効果を報告する論文はあるが、RCTでのエビデンスに欠ける。
・ただし疼痛コントロールにおいて非常に有効であることから、PPCを予防するのにも有効である可能性は十分考えられる
・腹腔鏡の方が機能的残気量の減少が少なく、PPCも起きづらいと予想されるがエビデンスなし。PPCを避けるために開腹→ラパロに変更するほどのこともない。
・術中PEEPにより術後無気肺形成を予防する。

c. 術後
・深呼吸訓練法や呼吸リハビリテーションを行うことによって、PPCの予防効果が期待される。
・腹部術後の経鼻胃管の留置については、症例を選んで留置することで無気肺を減らすことができる。なお誤嚥性肺炎の発症率は変わらない
(術後の悪心・嘔吐や経口摂取不能などの症例)
・また術後(抜管後)酸素化不良患者に対して、非侵襲的陽圧管理を行うことで、再挿管のリスクや死亡率を減らすことが知られている。

 

[静脈血栓塞栓症VTE]
・整形外科術後や産科術後で安静を解除した直後に発生した循環・呼吸不全でPEを疑う
・症状が軽微な呼吸症状でも、治療を開始しないと重篤化する

・症状
・頻脈
・低酸素血症
・低炭酸血症
・A-aDO2の開大
・低血圧
・D-dimer陰性で否定的となる

予防と治療
a. 間欠的空気圧迫法
・下肢骨折非合併例においては間欠的空気圧迫法が有用とする試験と、そうでないとする試験がある
→予防効果について、統一された意見はないが、出血のリスクが高く抗凝固療法が行えない患者へは有用性が期待される

b. 抗凝固療法
① すべての重症外傷例に対して、静脈血栓症の予防を可能な限りルーチンに施行する。

② 禁忌となる状態がなければ、可能な限り早期から低分子ヘパリンを投与する
(追記):出血が未分画群で有意に多いデータが一部あるが、現状低分子ヘパリンが明らかに優れているというデータはなく、値段などの観点からも未分画ヘパリン(ふつうのやつ)の投与でよい

http://www.jseptic.com/journal/30.pdf

③ 活動性出血の存在、あるいは出血のリスクが高い時は間欠的空気圧迫法や男性ストッキングを使用する
④ 予防目的の下大静脈フィルターは推奨されない
⑤ 全例にエコー検査をする必要はない
⑥ 重症外傷に対しては、退院まで予防を行うことを推奨する。リハ中もヘパリンor ワルファリン(INR 2.0~3.0)投与を継続する。

 

 

 

 

——————————————————————–

 

【2.術後の出血】

[輸血]
a. 赤血球
・Hb7~9で維持群とHb10~12で維持群では30日後死亡率に有意差なし
→原則としてはHb7でRCC輸血を行う

b. 血小板
・出血の医療や予防に関しては、PCが使用されるが、血管損傷による出血に対しては適応がない。外科的処置を優先する。
・血小板値6000~8万で出血イベントの頻度に差はない。
・輸血適応
・明らかな出血がなければ血小板数が<10,000/mm 3 で予防的な血小板輸血を行う
・出血のリスクが明らかに高い場合は<20,000/mm 3で血小板輸血を行う
・活動性出血,手術, 侵襲的介入を行う場合は高めの目標値(≧50,000/mm 3)にする
・ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)とTTPでは血小板輸血禁忌

・HIT
低スコアではHITである確率は0~3%、高スコアでは80%以上とされている。


http://www.hit-center.jp/

 

c. 新鮮凍結血漿(FFP)
・凝固因子の補充による出血の予防と止血の亢進が目的である。
・PT<30%, INR>2.0, APTT正常の2倍以上, フィブリノゲン<100で投与を考慮する。

 

[止血薬]
トランサミン(tranexamic acid)はプラスミノゲンに結合してその活性化を 阻害し線溶を防ぎます。 2011 年の tranexamic acid の 20,211 人の RCT では最初の 10 分で 1g(トランサミン、 第一三共、1g/10ml)、次の 8 時間で 1g が投与され最初の 3 時間が最も効果的のようです。
http://www.nishiizu.gr.jp/intro/conference/h30/conference-30_02.pdf

 

[術後の抗凝固療法]

http://nagoya-central-hospital.com/coordination/meeting/h221019.html

・CHADS2で血栓リスクが高い場合にはブリッジを考慮
(「ヘパリンブリッジは不要?」で有名なNEJMの論文では、CHADS2高得点の血栓ハイリスク患者があまり含まれていないことから、批判的な吟味が必要)
・低リスクではワーファリン中止。目安はINR<1.5

http://www.nishihosp.nishinomiya.hyogo.jp/chiiki_dr/chiiki_dr_pdf/handling_medicine.pdf

・ワルファリン内服患者の緊急手術に際してはビタミンKの投与を行う。


http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-tsukuba-150513.pdf

 

 

 

——————————————————————–

 

【3.術後心房細動】

・CABG後は30%以上
・弁置換術後で40%以上
・CABG+弁膜症で60%以上
・術後脳梗塞リスクを3.5に上げる

 

[予防と治療]
・β遮断薬の術後予防的投与により、術後心房細動(Post-Operative Atrial Fibrillation: POAF)はOR 0.35程度で予防できることが報告されている。
・予防目的で術後新規に始めるとAFが増えるという報告もある。
http://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20160809Goto.pdf

 

・抗凝固療法を行わない患者、低心機能の患者ではアミオダロンが良い適応となる
(追記:アミオダロンでワーファリンの作用が増強される)

 

[輸液負荷による治療]
術直後は血管内容量を維持するために、翌朝まで100mL/hrでリンゲル液を投与。
適宜1000mLの負荷投与を追加する。

 

 

 

——————————————————————–

 

【4.術後鎮痛】

・疼痛に対して適切な鎮痛薬を用い、過不足なく鎮痛を行うことは極めて重要である。
・疼痛により咳嗽を抑制し、無気肺の形成が起こりうる。
・外傷後の疼痛に対して、鎮痛が十分でないとPTSDのリスクが高くなる
・ICUでの鎮痛は十分ではことが多く、オピオイドを積極的につかっていく

[薬物各論]
a. オピオイド
・フェンタニルやモルヒネ
・副作用
・呼吸抑制
・嘔気
・(追記)便秘はほぼ必発。耐性は付かないので、対策しない限りずっと続く。眠気については耐性がつき、徐々に感じなくなる。呼吸苦症状にフェンタニルは効果なし
・循環器系への作用はほとんどなし
・投与方法
フェンタニル0.5mg 1A=10ml+生食40 ml で合計50ml (0.01 mg/ml)を2 ml/h程度で開始する。0.5~10 ml/hr程度で調節する。

 

b. NSAIDs
・オピオイドに併用する。
・COX2阻害薬(セレコキシブ)とCOX阻害薬の違いは下記

http://hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jc_20170605.pdf

c. デクスメデトミジン(プレセデックス)
・オピオイドと併用する
・デクスメデトミジンの投与はICUのせん妄発症予防に役立ち過鎮静日数・オピオイド必要量を減らす
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29498534

・投与方法

d. IV-PCA
・patient control anesthesia
・患者自身がレスキューpushを施行できる
→当然、非挿管患者限定
・患者満足度は高い
・入院期間に差はなし

e. 硬膜外麻酔
・術中/術後の疼痛管理に用いられる。
・術後の心筋梗塞、不整脈のリスクを軽減
・術後の無気肺、肺炎リスクを軽減

 

 

 

——————————————————————–

 

【5.術後の発熱と感染】

・術後24時間以内の発熱においては、感染症とは別の術後変化(体温セットポイントの変化)としてとらえられる。

・術後の創部感染の診断において、体温測定よりも、創部の観察のほうが重要である

・予定手術の術後体温測定は早期の感染の発見と除外には大きな意義を持たない。

・一般的には、術後48時間以内で創部感染がなく、全身状態良好な発熱は経過観察としてよい

・術後数日の発熱の原因として、手術前から存在した肺炎や、手術前から明らかな感染に起因する頻度も高い。

・感染巣のソースコントロールとして行った手術では、適切な抗菌薬を投与していれば72時間を経て解熱する。

・術後96時間以降の発熱は感染を疑う。肺炎、UTI、CRBSI、DVTなどを鑑別する。

・体温<38.5かつHR<100bpmなど全身性の炎症の所見がなければ、抗菌薬の投与は不要との意見もある。

 

 

 

——————————————————————–

 

【6.ステロイドカバー】

・循環動態に良い影響を及ぼすという明確なエビデンスは存在しない。
・投与の実際は下記

http://www.takanohara-ch.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2016/09/di201608.pdf

 

[ADRENAL]
Patient:人工呼吸を要し昇圧剤か血管作動薬が最低4時間使用された
18歳以上のSeptic shock

【Inclusion Criteria】
1. 18歳以上
2. 感染が証明されるか強く疑われる
3. 炎症のサインがある。以下の項目のうち2つ以上
・深部体温>38度もしくは<36度
・HR>90
・RR>20、PaCO2<32mmHgもしくは人工呼吸装着
・WBC>12000、<4000もしくは10%の好中球上昇
4. ランダム化時点で人工呼吸を使用(侵襲的人工呼吸、非侵襲的人工呼吸(CPAP, bilevel)のどちらか)
5. 収縮期血圧90mmHgもしくは平均動脈圧(MAP)60mmHg、もしくは臨床医が還流を保つために必要と定めたMAPを維持するのに昇圧剤もしくは血管作動薬が必要
6. ランダム化時点で4時間以上昇圧剤、血管作動薬を使用

【Intervention】
ソルコーテフ200mg/dayを連日持続投与

【Conclusion】
1. ハイドロコルチゾンは敗血症の90死亡は減らさないことが真実として、副次評価であるショック離脱、ICU free days alive, MV期間短縮、輸血割合減少の4つのPositive Outcomeを期待して使用するか?しないか?
2. ハイドロコルチゾンで予後が改善する集団がいるという仮説を残すためハイドロコルチゾンを使用する、もしくは限定的に使用する。
http://www.kameda.com/pr/intensive_care_medicine/post_14.html

(追記)ソルコーテフ200mgは、持続投与でも100mg2Xでも効果に差はない。半減期が短いので最低でも、二回には分ける

 

 

川良健二

 

その他の巻についてもこちらをご覧ください↓

INTENSIVIST 重要項目まとめ

 

前の記事
次の記事
Pocket

Leave a Comment