目次
1. 【人工呼吸器関連肺障害VALI】
2. 【人工呼吸器非同調】
3. 【呼吸循環相互作用】
4. 【人工呼吸器モードの総論】
5. 【各論①:持続的強制換気(CMV、A/C)】
6. 【各論②:PSV(Pressure Support Ventilation)】
7. 【各論③:SIMV】
8. 【各論④:BIPAP/APRV】
その他の巻についてもこちらをご覧ください↓
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【1.人工呼吸器関連肺障害VALI】
Ventilator Associated Lung Injury=VALI
・VALIはARDS患者の予後に大きな影響を与える。
・ARDSでは重力に従って、(臥位)背側でより胸膜圧が高く、その結果経肺圧(肺を内部から押し広げる圧力)が低くなり、肺胞の虚脱が目立つ。
・VALIは、高い気道内圧とそれに伴う大きな1回換気量によって引き起こされる。
・気道内圧が30cmH2Oを超えると肺毛細血管透過性が上昇し、肺血管外水分量の増加およびアルブミン漏出が始まる
・VALIは高い経肺圧と大きな一回換気量で生じる
→これは必ずしも高い気道内圧が直接VALIを引き起こしているわけではないことに注意。
→つまり、気道内圧≠経肺圧であり、
気道内圧=経肺圧+胸膜圧(胸腔内の圧力)であることから、
胸膜圧の上昇している病態(肥満、胸水、腹部コンパートメント症候群)では
自然と気道内圧が上がっており、気道内圧が高くても、経肺圧は高くないことが
予想される。
・経肺圧=気道内圧ー胸膜圧であることから、胸腔内が陰圧となる際(特に強い吸気努力が認められる際)には、気道内圧が正常値であっても、経肺圧が上昇しVALIの誘因となることがあるということに注意
・モニター上の気道内圧だけに惑わされないようにする。
・胸膜圧は直接測定することが困難であり、食道内圧に近似できることから、食道下部にバルーンを留置して測定する方法がある。
・また、高肺容量によるVALIの他にも、低肺容量によるVALIの機序もしられている
→腹側肺胞の過膨張と背側肺胞の虚脱の境界で、高い剪断応力が生じ、結果的に肺障害が生じる。
[肺保護換気]
・ARDSでは人工呼吸器管理に伴い肺障害が生じることから、低1回換気量によりVALIを最小限にしつつ生命を維持するために最低限のガス交換を保つコンセプト。
・ARDSの死亡率を下げることが分かっている。
・結果として生じる高CO2血症については、酸塩基平衡が代償出来ている範囲内で許容していく戦略をとる(Permissive Hypercapnia)
[Driving pressure]
・Driving pressureという概念が、ARDSの肺保護換気において重要である。
・Driving pressureとは、自発呼吸のない患者に対して、吸気終末と呼気終末の気道内圧差で規定される(プラトー圧-PEEPとも表現できる)
→ARDS患者では、上記理由から背側肺で機能的肺容量が著明に減少しており、例えば、8mL/kg/minなどの一回換気量の基準は使用することができない
→Driving Pressureの概念は機能が残存した肺のサイズをもとにした指標であることから、ARDS肺の評価には適していると考えられる。
・呼吸器パラメータにおいてARDS患者の生存率に関連していたのはDriving Pressureだけであった。
・一回換気量やプラトー圧が正常上限値以下でも、Driving Pressureが高ければ死亡率が上昇していた。
・Driving Pressureが高くなれば肺保護作用が低下し、Driving Pressureが低くなれば肺保護効果を呈するようになる。
・Driving Pressure <14cmH2Oでは院内生存率が上昇した。
→ARDS患者に対して、V-V ECMOの導入による超低一回換気量管理によりDriving Pressureを下げ、生存率を上昇させることが出来るか。
・自発呼吸のある患者に対して、Driving Pressureを下げることによって呼吸努力が強くなるようなことがあれば本末転倒である。
[自発呼吸関連肺障害]
・以前では筋弛緩薬投与下での完全調節呼吸モードが呼吸器管理の基本であったが、近年は呼吸筋の萎縮を防ぐ目的などから自発呼吸を温存しながら部分補助呼吸モードを使用することが多い。
・しかしながら、ARDSや呼吸努力が強い場合には、自発呼吸が肺障害を進行させる可能性が考えられている。
→気道内圧=経肺圧+胸膜圧(胸腔内の圧力)であるが、自発呼吸のある患者においては、呼吸筋の収縮により、胸腔内が陰圧傾向になることで、気道内圧が一定の値であっても、経肺圧が上昇し、結果的に肺障害が進行してしまう可能性がある。
→つまり、筋弛緩患者では、呼吸器設定という1つの変数によって、上記の式が規定されることから、気道内圧を制限すれば、直接経肺圧も制限されることになるが、自発呼吸のある患者においては、呼吸筋の収縮という2つめの変数が導入されることにより、気道内圧の制限が経肺圧の制限とならない場合が出てくるということである。
→これが自発呼吸関連肺障害の病態である
[PEEPについて]
a. PEEPの利益
① リクルートメント
虚脱した肺胞をリクルートメント(膨らませる)することによって肺内シャントを減らし、酸素化を改善する。また、呼気終末時にも肺胞を虚脱させないことによって、虚脱⇔膨張に伴う肺障害を軽減することができる。
ただし、過剰なPEEPの上昇は肺胞を過伸展させVALIを増やしてしまう。
② 左室後負荷減少
PEEPの左室収縮能自体への影響ははっきりしないが、PEEPによる胸腔内圧の上昇は経壁圧を減少させ、結果的に左室後負荷を減少させる。
b. PEEPの害
① 静脈灌流量低下
胸腔内圧の上昇により静脈灌流量が低下する。
循環血症量過多の患者においては左室前負荷の減少により心拍出量を増加させ得る
② 肺血管抵抗上昇
PEEPは肺胞血管を狭小化することから、肺血管抵抗を上昇させうる。
ただし、肺胞虚脱の状態において、適切なPEEPでリクルートメントを行うことにより低酸素血症の改善→肺血管抵抗の低下という流れもある
→つまり、適切なPEEPを設定することが重要
肺血管抵抗が上昇した場合には、右室の後負荷増大により心室中隔偏位を起こす可能性がある。
c. PEEPの設定
・気道内圧を指標としてPEEPを設定する場合
① プラトー圧<30cmH2O
② Driving pressure<15cmH2O
を基準とする。
また、中等度以上のARDSに対しては下記のtableを参考に高めのPEEPを用いることを検討する。
https://derangedphysiology.com/main/required-reading/respiratory-medicine-and-ventilation/Chapter%205121/optimal-peep-open-lung
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【2.人工呼吸器非同調】
・呼吸苦や呼吸仕事量の増大に寄与するだけでなく、死亡率との関連も示唆されている。
・患者の不快感だけでなく、肺・横隔膜の障害を引き起こす可能性がある。
① トリガーによる非同調
a. ミストリガー
・患者が吸気努力を行っているにも関わらず、人工呼吸器に感知されないことを指し、最も頻度の高い非同調である。
[原因]
・人工呼吸器の感度が鈍すぎることなどが原因
・COPDなどの疾患により、autoPEEPがかかっている状態においては、気管支→口側へと空気の流れがあるので、逆の向きに吸気トリガーをするのに通常の呼吸努力よりも大きな努力が必要となる。
(追記:autoPEEPとは、COPDなどの閉塞性疾患で、呼気終末で肺胞に対して常に陽圧がかかっている状況→COPDでは呼気がしづらく、全ての空気を吐き出し切れずPEEPがかかってしまうと考えると分かりやすい。呼吸器の波形でボリュームがゼロに戻らない。PEEP圧が設定よりも高いなどで気付くことができる。)
・高いサポート圧でミストリガーが惹起される
(詳細は【PSV】参照。高いサポート圧では呼気が不十分となってautoPEEPが増強される)
・深鎮静によりミストリガーが惹起される。
[身体所見]
・人工呼吸器からの送気が行われていない間に吸気補助筋の使用を認める。
・人工呼吸器の回数に比して呼吸努力の回数が多い
・患者の顎が挙上しているのに送気がトリガーされていない。
[対処法]
・人工呼吸器の感度を上げる
・autoPEEPを改善するために、
→気管支拡張薬の使用
→一回換気量を下げる
→呼気時間を長くとる(換気回数を下げて呼吸時間自体を長くする、吸気時間を短くする)
→PEEPを上げる
などの方法がある
b. ダブルトリガー
・送気終了後、呼気の前に再度吸気がトリガーされる状態
(吐き始める前にもう一度吸ってしまう)
[原因]
・患者の吸気努力が、呼吸器の送気時間内に終了せず2回目の換気を誘発してしまう状態
(吸い終わってないのに、機械が送気を一旦終了しちゃって、だけど患者は吸気しているので再度送気がトリガーされてしまう状態)
→患者の要求する吸気時間に対して、人工呼吸器での送気時間設定が短すぎる場合に起こる
→患者の要求する換気量に対して供給される換気量が少なすぎる場合に起こる
[身体所見]
・呼気が始まる前に、再度胸郭の上昇を認める。
[呼吸器の波形]
https://www.kango-roo.com/sn/k/view/3251
[対処法]
・患者の要求する吸気時間に応じた送気時間および一回換気量を確保する
→ただし、高い一回換気量を許容しなければならなくなる
→ARDSの急性期や代謝性アシドーシスなどで患者の吸気が過剰になっている場合には、鎮静や筋弛緩などで一回換気量を適正化することも必要
c. オートトリガー
・患者の吸気努力以外のきっかけ(気道内圧や流量の変化)で人工呼吸器の送気が行われることを指す。
[原因]
・人工呼吸器の感度が鋭敏すぎる
・呼吸回路内に水が溜まっている
・回路のリーク
・高拍出状態の心拍動、IABPなどに伴う振動
[身体所見]
・吸気努力がないにも関わらず送気がトリガーされている
[呼吸器の波形]
心房細動、心室細動のようにギザギザの波形を呈する
[対処法]
・トリガー感度を鈍くする
・回路の適正化を行う。
d. サギング
・患者の要求する吸気流量に対して人工呼吸器の送気流量が不足していることによる
(ダブルトリガーは”時間”が不足していた)
・患者がボリュームをコントロールできないVCVモードでのみ起きる
→送気終了後も患者は吸気努力を継続するため、ダブルトリガーが引き起こされることが多い。
[対処法]
・PCVやPSVに変更する
・そもそも自発呼吸のある患者に対してVCVを用いることは非同調を誘発するため好ましくない。
e. 送気の終了遅延
・患者が吸気努力を終了しているにも関わらず人工呼吸器が送気を継続するために送気の終了が遅れる非同調
→呼気が短くなることにより、autoPEEPの原因となる。
→肺の過膨張の原因となる。
[原因]
患者の要求吸気時間に対して早期時間が長い場合、患者の吸気努力に対して圧サポートが大きすぎる場合に起きる
[身体所見]
送気に対して呼気で抵抗するため、過剰な呼気努力を強いられた結果、腹筋が収縮する。
[対処法]
・PCVであれば送気時間を短くする
・VCVであれば設定流量を上げる(送気スピードを上げる)。または一回換気量を小さくする。
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【3.呼吸循環相互作用】
[自発呼吸の影響]
・吸気時に胸腔内圧が陰圧となり、右房圧が低下する
・横隔膜の尾側への移動により、腹腔内圧・上大静脈圧が上昇し。右房圧との圧差が大きくなり、結果的に静脈灌流量が増加する。右室一回拍出量が増加する。
・この際、血液は肺血管に貯留することから左心の前負荷は減少することが知られている。さらに、胸腔内の陰圧により、左室後負荷は増大。
→左室1回拍出量は減少する。
・呼気時にはこれと逆のことが起きる
[陽圧換気の影響](筆者記)
①前負荷(右室・左室)
・胸腔内圧の上昇により、胸腔内の静脈が圧排され、また右房圧が上昇することにより静脈灌流量が減り(胸腔の外に血液が追い出されるイメージ)、結果的には前負荷が減少する。
・健常者においては、拍出量は前負荷に依存しており(左室拡張末期容積:フランクスターリンの法則)、前負荷の減少に伴い拍出量は低下すう。
・心収縮力が低下している例では拍出量は後負荷に依存しており、陽圧換気に伴う後負荷の減少により(下記のごとく)、左室の収縮が改善され拍出量が増加する。
②右室後負荷
肺胞壁の進展により肺血管抵抗は上昇。結果的に右室の後負荷は増大することになるが、通常、右室の予備能のより代償される。
COPDや喘息のようにautoPEEPがかかっている状況においては、代償の範囲を超えた後負荷増大により拍出量が低下する。
③左室後負荷
・左室後負荷を規定するのは、左室経壁圧という概念
→左室が収縮するのにどれくらい大変か、の指標
・陽圧換気時には、胸腔内圧が陽圧になっているので、(あらかじめ、胸腔内圧が心臓を収縮する側におしてくれているので)、収縮する仕事が楽に済む
→陽圧換気時は後負荷の減少が認められる。
・自然吸気時には、胸腔内が陰圧になるので、(心臓が拡張する側に引っ張られているので)収縮するのが大変になる
→後負荷が増大する。
→SASなどで胸腔内が著明な陰圧になる状況では左室後負荷が増大する。
・心機機能低下例では、心拍出量は後負荷に依存する(左室拡張末期容積には依存しない)
→つまり、心機能低下例の陽圧換気では、前負荷の減少による拍出量の低下よりも、後負荷の減少による拍出量の増加の影響が大きい。
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【4.人工呼吸器モードの総論】
おおまかには以下の3つに分けて考えることができる
・CMV(Continuous Mandatory Ventilation)
→持続的強制換気(PCV、VCVなど)
・IMV(Intermittent Mandatory Ventilation)
→間欠的強制換気(SIMVなど)
・CSV(Continuous Spontaneous Ventilation)
→持続的自発換気(CPAPなど)
・その他(PSV、BIPAPなど)
→大部分を自発呼吸に依存するモード
[吸気相の規定]
・吸気相は3つの変数により規定される
・トリガー変数があらかじめ設定された閾値に到達することで始まり、リミット変数を超えない範囲で維持され、サイクル変数があらかじめ設定された閾値に到達することで終了する。
① トリガー変数
・吸気の開始を規定する
・最も一般的なトリガーは時間トリガーであり、呼吸回数によって規定される一定時間内に自発呼吸がない場合にトリガーされ吸気が始まる
・圧トリガーは、吸気努力によって生じる回路内の圧力変化をトリガーとする
② リミット変数
・吸気中の圧や流量、換気量の上限値を規定する
・つまり、PCV(Pressure Control Ventilation)では設定圧がリミット変数である
・VCV(Volume Control Ventilation)では設定換気量がリミット変数である。
③ サイクル変数
・吸気の終了を規定する
・最も一般的なサイクル変数は時間であり、設定した吸気時間が経過すると吸気が終了する。
[酸素化と換気](筆者追記)
・呼吸器の設定をする際は、酸素化と換気を分けて考えるとすっきりする。
① 酸素化とは「どれだけ酸素が体中にいきわたっているか」を指し、SpO2やPaO2、P/Fratioを指標として判断する。
→人工呼吸器において酸素化を規定するのが、FiO2やPEEPであり、上記の指標が悪化する際にはまずその二つを調整することを考える。
② 換気とは、「体内の二酸化炭素をどれだけ体外へ吐き出しているか」を指し、PaCO2や動脈血ガスのpHを指標として判断する・
→人工呼吸器において換気を規定するのが、一回換気量と呼吸回数(つまり、その二つを掛け合わせた分時換気量)であり、PaO2が上昇/低下する際にはまずその二つを調整することを考える。
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【5.各論①:持続的強制換気(CMV、A/C)】
① VCV
・送気する空気の量(一回換気量)を設定
・その他に、送気時間(0.7~1.2秒程度)、PEEP(5程度)、FiO2(最初は100%)、呼吸回数(10回前後)を設定
・設定した換気量(送気する空気の量)に達した時点で送気を終了
・VCVでも送気時間を設定する場合が多いが、時間設定はあくまでも、送気流量を規定する因子に過ぎない。量=流量×時間
② PCV
・送気する圧力(ピーク圧、IPAP)と、それにかける時間を設定。
・その他に、送気時間(I:E比)、PEEP、FiO2、呼吸回数を設定。
・送気時間を設定し、規定の時間をもって送気を終了する。
・上記の換気量となるように送気圧を設定する(10cmH2Oとか15cmH2Oとか)
https://www.nissoken.com/jyohoshi/ag/12-1mihon/02.pdf
・どちらが優れているという、質の高いエビデンスはない。
・個々の症例に適した換気モードを選択する。
・いずれのモードでもSpO2を指標にし、(必要最低限のFiO2とPEEPを設定しながら)適正な酸素化を保つ
・PEEPの設定については上記
a. 一回換気量
・6-8mL/kg(適正体重)で設定
・気道内圧のプラトー < 25-30cmH2O で管理
・実際にはDriving Pressureが15cmH2Oを超えない管理が出来れば言うことはない
(上記参照)
b. 呼吸回数
・分時換気量の調節は主に、呼吸回数によって行う
・なぜならば、一回換気量は、肺保護換気の観点から、少なく設定されていることが多く、それを増やせない以上、回数を増やして分時換気量を増やすしかない。
・PaCO2よりもpHを指標として呼吸回数を設定する
→つまり、呼吸性アシドーシス/アルカローシスを代謝性に代償出来ているならば、PaCO2の値自体は大きな問題にはならないということ。
c. 患者-呼吸器同調性
① トリガー感度
・自発呼吸による圧もしくは流量の変化を感知して、それらがトリガー感度を超えた場合には送気が開始されるtime-trigger
・設定呼吸回数に基づいた時間によるtime-trigger
・上記【人工呼吸器非同調】を参考に適切なトリガーを設定する。
② 吸気流量の設定
・患者の吸気努力に合わせて、送気流量を設定する。患者の吸気が強いのに、送気流量が十分でないと、「吸っているのに入ってこない」という非同調の状態となる。
③ 吸気立ち上がり時間の設定
・患者の吸気努力に合わせて、吸気立ち上がり時間(送気開始から送気圧に達するまでの時間)を調節する。吸気努力が強い場合には、時間を短くして(一気に送気して)あげないと非同調となる。
③ 送気時間の設定
・上記は「圧が立ち上がるまでの時間」であり、これは送気開始から送気終了までの時間。
・送気終了と吸気終了のタイミングが合わないと、「吸っているのに入ってこない」あるいは「もう要らないのに入ってくる」状態の非同調となる。
・基本的には流量-時間曲線が基線に戻るような設定が好ましいが、種々の状況においては、その限りではない
・例えば、COPDの患者では吸気が長くなると、呼気が短くなりautoPEEPがかかってしまう。このような状況では、(他の設定を変えないのであれば)呼気時間を確保するために、「吸っているのに入ってこない」状況を許容しなければならない。
[トラブルシューティング(自発呼吸なし)]
a. 気道内圧が上昇した場合
① VC
下記二つをまとめて呼吸器メカニクスの増悪と称す(以下でも頻回に登場し、大事な概念)
・気道抵抗の上昇が起きている
(空気の通り道が狭くなって、通りづらくなっている)
→回路の閉塞、回路~患者に液体貯留(痰など)がある、片肺挿管、多すぎる一回換気量、気管支狭窄などを鑑別する。
・肺コンプライアンスの低下が起きている
(風船が膨らみづらくなっている)
→肺うっ血、肺水腫、心不全、無気肺、気胸、膿胸、肥満、びまん性肺胞障害
→新たに起きた場合は心原性の可能性と、無気肺・気胸などを鑑別する。
https://www.nissoken.com/jyohoshi/ag/12-1mihon/02.pdf
② PC
Pressure Controlの名前の通り、圧を規定しているので、自発呼吸がない限りは設定圧を超えることはない
b. 気道内圧が低下した場合
① VC
・呼吸回路のリーク
・肺コンプライアンスの上昇(改善)
② PC
・呼吸回路のリーク
・基本的には圧は一定に保たれている。
c. 換気量が増加した場合
① VC
・Volume Controlの名前の通り、自発呼吸がない限り、一回換気量が設定以上になることはない。
・例外として、機械送気が患者の自発的な吸気をトリガーしてしまった場合に換気量が増えることがある
② PC
・自発呼吸がない場合においては、気道抵抗や肺コンプライアンスなどの呼吸器メカニクスが改善した場合に換気量が増加する
(自発がある場合は、吸気努力によって左右される)
d. 換気量が減少した場合
① VC
・回路のリーク
・呼吸器メカニクス(気道抵抗、肺コンプライアンス)の増悪により、最高気道内圧が上昇してしまい、上限アラーム値を超えた場合
→換気量が設定値に達する前に吸気→呼気へと切り替わる
② PC
・回路のリーク
・呼吸器メカニクスの増悪
(気道抵抗が上昇している場合には、送気流量が減少しているので、送気時間を長くすれば一回換気量は確保できる)
[トラブルシューティング(自発呼吸あり)]
・一回換気量を規定する圧は、呼吸器の設定と患者の吸気筋による吸気圧の合計となる。
・非同調に対して過不足なく設定することが必要
a. 気道内圧が上昇した場合
① VC
・吸気時間のミスマッチ(呼吸器が患者を上回る)
→呼吸器の送気時間が患者の吸気時間と一致しない場合、つまり「患者が息を吐きたいのに、まだ空気が送られてくる」状況により、気道内圧が上昇する。圧波形は角が生えたようなスパイクとなる。
→換気量の設定を下げたり、吸気時間を短くしたり(送気流量を上げたり)することで、送気時間を短くすることが出来る
・ダブルトリガー(患者が呼吸器を上回る)
→患者の吸気努力が設定した一回換気量を上回っている場合に、二回目の送気がトリガーされてしまう。一回の換気で二回分の送気が行われてしまうのでVALIの原因となる。
→肺保護換気の観点から、鎮静や筋弛緩などにより患者の一回換気量を抑え適正化する。
→詳しくは上述
② PC
・吸気時間のミスマッチ(呼吸器が患者を上回る)
→呼吸器の送気時間が患者の吸気時間と一致しない場合、つまり「患者が息を吐きたいのに、まだ空気が送られてくる」状況により、気道内圧が上昇する。圧波形は角が生えたようなスパイクとなる。
→送気時間、rise time(圧が立ち上がるまでの時間)を短くすることで、(一気に送る空気の量を上げる)ことで送気時間を短くすることが出来る。
・ダブルトリガー(患者が呼吸器を上回る)
→患者の吸気努力が設定した一回換気量や送気時間を上回っている場合に、二回目の送気がトリガーされてしまう。VALIの原因となる。
→送気時間を短くする。あるいは、肺保護換気の観点から、鎮静や筋弛緩などにより一回換気量を抑え適正化する。
→詳しくは上述
b. 気道内圧が低下した場合
① VC
・患者の吸気流量が設定した送気流量を上回る場合、吸気の陰圧により気道内圧が低下する。(吸気の勢いが送気の勢いを上回るとき)
・(追記)流量の概念なので、換気量とは区別して考える。
→(追記)換気量=送気流量×送気時間 なので、流量を増やすためには
流量を直接上げる(時間を短くする)か換気量を増やせば良いことが分かる。
② PC
・rise timeが不適切だったり、吸気圧が不足していたりすると強い自発呼吸が生じる。
→適宜設定を
c. 換気量が増加した場合
① VC
・上述のダブルトリガーが生じた場合に換気量が増加する。ダブルトリガーを無くすための適切な設定を。
② PC
・呼吸器による換気量に、自発呼吸による陰圧が生み出す換気量が上乗せされていることが前提。
→呼吸器による換気量が増えるのは、上述のように呼吸器メカニクスが改善している場合で良い徴候
→自発呼吸による換気量が増えているのは、疼痛や不安により吸気努力が増えている可能性があり、悪い徴候。VALIのリスクとなる。
d. 換気量が減少した場合
① VC
・回路のリークが考えられる。
・基本的には圧アラームの上限に達しない限りは、設定通りの換気量となる。
② PC
・換気量が増加する場合と逆
→呼吸器メカニクスの増悪
→また、呼吸器メカニクスが改善した際にも、自発呼吸の無理な吸気努力が減少し、結果的に換気量が減る場合がある。
・鎮静による自発呼吸の消失なども挙げられる。
[VCV or PCV ??]
・上述のように(【呼吸循環相互作用】)、陽圧換気は循環動態に影響を与えるが、その影響具合はVCV/PCVで有意差がない。いずれのモードにしても気道内圧の上昇が循環動態に影響を与える。
→ARDS患者に対する予後についても、有意差はなく、症例や施設、個人の使いやすさに応じて選択すればよい。
a. VCVの適応
・VCVは一回換気量が保証される
・自発呼吸がない患者に対しては良い適応である
→自発呼吸がある場合には、換気量が固定されていることから同調性が悪い。
→患者の吸気努力が強い場合にはダブルトリガーによりVALIのリスクがある。
・コンプライアンスは保たれているが、気道抵抗が上昇している閉塞性疾患に対して、呼気時間を保ちながら換気量を確保するのには有用。
b. PCVの適応
・換気量を固定しないという点において、同調性が良いと言える。
・浅い鎮静、無鎮静の患者に対してはPCVが同調性に優れる
・換気量の保証できない閉塞性疾患の患者においては、PCVよりもVCVが適している可能性がある。
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【6.各論②:PSV(Pressure Support Ventilation)】
・PSVは自発呼吸主体の換気モードであり、一回換気量・吸気時間・呼吸回数のいずれもが、患者の呼吸パターンと人工呼吸器との相互作用によって決まる。
・サポートのトリガーは自発呼吸努力によるもののみ。
・自発呼吸を温存することから、ARDSに対する肺保護換気の実施は難しい。
・胸腔内圧は低く保たれていることから、循環血漿量の減少している状態や右心不全に対しては有利には働く。左心機能低下例には不利に働く(詳細は【呼吸循環相互作用】)
(追記)
・CPAPは一定の圧をかけ続けるだけのモードであり、完全に自発呼吸に依存
→CPAP+PSVとすることが出来る。SIMV+PSVも可
・BIPAPは高い圧と低い圧を交互にかけ、その圧力差で機械換気を生み出している。
→吸気時には高い圧でサポート、呼気時には低い圧で呼気しやすいようになっている。
[基本設定と動作]
・トリガーされると、吸気が設定の圧を維持できるように呼吸器がサポートを行う
→設定の圧に達したあとそれを維持し、患者の吸気が終了し流量が減少するとサポートを終了する。(flow cycle)
・吸気時間、一回換気量、呼吸回数のすべてを患者の自発呼吸に依存する。
a. トリガー
・PSVでは呼吸回数の設定がないので、圧トリガーor流量トリガーのどちらかから選択する。流量トリガーの方が迅速にトリガーされ吸気delayがないとされる。
・トリガー感度は、成人であれば、呼吸回数10回程度、流量トリガー0.5~2L/min程度、圧トリガー-1.5~-1.0cmH2O程度に設定する。
・感度が高ければ、回路の振動や心原性拍動により、必要のないオートトリガーを招いてしまう。
・感度が低ければ、トリガーに要する吸気努力が大きくなってしまい、最悪の場合にはトリガーが起きないミストリガーを招く。
b. サポート圧
・患者の自発吸気圧に対する補助圧
・吸気努力に直接影響する因子であり、サポート圧を高くすれば患者の吸気努力はほとんどなくなる。
・逆に離脱前などには、気管チューブや回路分の低いサポート圧を設定することも可能
・分時換気量や患者の呼吸努力(呼吸筋の使い具合、腹式呼吸の有無)などを鑑み、適切な値に設定する。(10cmH2Oとかくらい?)
c. 吸気立ち上がり時間 rise time
・吸気時に設定圧まで到達する速さ、すなわち流量を調節する項目。
・流速が速すぎると、気道内圧が一時的にオーバーシュートする可能性がある。
→急速に吸い込んで、すぐに呼気に移行するので、一回換気量が低下する。
・流速が遅すぎると「吸いたいのに吸えない」ことになり、吸気努力の上昇、患者の不快感につながる
・COPDなど気道内圧が高い患者や、呼吸不全などの患者においては早い吸気流速を必要とするため、rise timeを短く設定する必要がある。
d. サイクルオフ基準
・吸気相から呼気相へと切り替えるタイミングを規定。
・つまりサポートを終了するタイミング
・吸気の際の最大流入速度に対して、一定の割合%まで流入速度が減少した際に吸気が終了したとみなし、呼気相へ移行する。
・割合を高く設定すれば、呼気相への移行が早まり、一回換気量は減少する。低く設定すれば、呼気相への移行が遅くなり、一回換気量は増量する。
・吸気時間が固定されている強制換気と違い、患者の呼吸中枢に基づいてサイクルオフを定義するため、患者との同調性が得やすい。
・ARDS患者においては吸気努力が強く、最大吸気流入速度が速くなり、またコンプライアンスの低下から流量の減少も早くなり、サイクルオフが比較的早く訪れる。
→吸気時間は生理的なものよりも短くなりがちである。
→設定比を高く設定してしまうと、吸気時間はさらに短くなり一回換気量は低下し、時にダブルトリガーを引き起こす。
・COPD患者や喘息患者など気道抵抗が大きい患者は、最大吸気流速が得られにくく、また減衰も乏しいため吸気時間が生理的なものよりも長くなりがちである。
[PSVの同調について]
a. ミストリガー
・COPDなどの気道抵抗が大きい患者においてはautoPEEPが生じている。
・これらの患者に対して吸気時間を延ばしてしまうと、呼気が不十分となってautoPEEPが増強される。
→患者の吸気努力に対してサポートが起きないミストリガーが起きる。(【人工呼吸器非同調】)
b. 睡眠異常
・PSVによる過剰なサポートによって呼吸中枢への刺激が抑制され、無呼吸とそれに誘発される患者の覚醒という問題が生じ得る。
→PaCO2の低下により(過換気により)無呼吸が生じると考えられているため、その適切な調整を行う。
[PSVの適応]
① 導入すべき例
・鎮静薬や鎮痛薬を減量したい患者。自発呼吸を主体としたサポートを行える
・自発呼吸があり、強制換気モードへの同調性が良くない患者
・人工呼吸器からの離脱や抜管を予定している患者
② 導入しないべき例
・徐呼吸、無呼吸のリスクが高い患者、鎮痛・鎮静が深い患者では分時換気量が保証されない(一応バックアップを設定することが出来る)
・呼吸努力が非常に強い患者
→ARDSや重症心不全ではサイクルオフが送気に来てしまい、一回換気量が小さくなる。また高いサポート圧により、気道内圧が正常でも経肺圧が非常に高くなる可能性がある。
・NPPVマスク使用中などで回路リークを許容している患者
→サイクルオフ基準を満たすのが困難となり吸気時間が不適切に長くなる。換気量が不十分となり無気肺を起こす
・気道抵抗が非常に高い患者
→最大吸気流速が得られにくく、また減衰も乏しいため吸気時間が生理的なものよりも長くなりがちである。
[PAVとは]
・患者の作り出した流量と換気量の変化に応じて、呼吸筋の圧力をその都度測定し、それに応じたサポートを行うことが出来るモードである。
・計測した圧力のうち、どのくらいの割合をサポートするかを設定する。
・気道抵抗やコンプライアンスといった呼吸器メカニクスを考慮しながらサポートを行える唯一のモード。
[利点]
・PSVではトリガーされてしまうと、設定圧までサポートを行い一回換気量が保証されるが、PAVでは吸気努力に応じて一回換気量が変化することから、過剰なサポートを防ぐことができる可能性がある。
→autoPEEPやミストリガーが生じにくく、PSVよりも同調性が良いことが示されている。
・徐々にサポートを減らしながら離脱を目指すいわゆるウィーニングという手法は現在推奨されていないが、SBTに繰り返し失敗した患者においては、非同調のすくないPAVでのウィーニングが有用である可能性がある。
[欠点]
・呼吸努力が強い患者に対しては、吸気努力が強いとサポートの強くなってしまうなど、過剰なサポートとなる場合がある。
・逆に吸気努力が弱い患者に対しては、サポートが過小となる可能性がある。
→超急性期を過ぎて、呼吸努力がおさまりある程度酸素化や換気が改善した状態で、かつ自発呼吸がしっかりしている状態に用いる。
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【7.各論③:SIMV】
・FiO2、強制換気時の形式(VCV or PCV)、PEEP、呼吸回数、トリガー感度を設定する。
・トリガー感度は、成人であれば、呼吸回数10回程度、流量トリガー0.5~2L/min程度、圧トリガー-1.5~-1.0cmH2O程度に設定する
・自発呼吸がない場合には、A/C(持続的強制換気)とSIMVは同じふるまいをする
http://www.jseptic.com/ce_material/update/ce_material_10.pdf
・自発呼吸がある場合、設定された回数のみ強制換気を行い、それ以上の自発呼吸については強制換気がされない
→完全に自発呼吸となるので、SIMV+PSVとしPressure Supportを加えることが多い。
(追記)
・「設定された回数までは強制換気」というのは、具体的には、呼吸回数から算出される吸気時間の前後に、トリガーが有効になるトリガーウィンドウが設定され、ウィンドウ内の自発呼吸については強制換気を行うというもの。
・つまり、12回/minの呼吸器設定をすると、5秒に一回呼吸をすることになる。
つまり、5秒に一回、一定の幅を持ったトリガーウィンドウがおとずれ、ウィンドウon状態で自発呼吸を感知すると強制換気がトリガーされるということ。
・ウィンドウ内で二回目の自発呼吸についてはトリガーされない。
[SIMVの難点]
・かつてSIMVモードは維持や離脱時に多用されたが、最近は使用頻度が低下している。
理由①:2種類の換気様式が混在するため、患者はどちらの換気が行われるか検討がつかず、吸気仕事量は軽減されないと言われている。
理由②:呼吸器離脱時のモードとして適さない。
→多施設共同研究にて、SBT施行群と比べて、SIMVによるweaningは離脱期間を延長させ、さらに離脱の成功率も低いという結果が出ている。
理由③:患者との非同調が多い。特に換気回数が多いと率が高くなる
→非同調を起こした患者の多くはSIMVモードであった。さらに、呼吸回数が増えると非同調が増えた。
→一方で呼吸回数を減らすと、自発呼吸の回数が増え、呼吸仕事が増える。
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【8.各論④:BIPAP/APRV】
・BIPAPとAPRVはいずれも、二相性のCPAPであり、換気中のどのタイミングでも自発呼吸が可能な換気モードであり、完全に自発呼吸へ依存している。
http://www.jseptic.com/ce_material/update/ce_material_10.pdf
[BIPAP]
a. 設定項目
高CPAPの圧、低CPAPの圧、高CPAP時間、低CPAP時間を設定する。低CPAP相ではPSも設定できる。
→高PEEP相と低PEEP相の圧較差によって呼吸を生み出すので、その切り替え回数がすなわち換気回数になる。
→高PEEP相と低PEEP相の圧較差に肺コンプライアンスの要素を加えて換気量が規定される。
→自発呼吸がある際には、自発呼吸をトリガーとして低圧相→高圧相の切り替え(つまり圧サポート)が行われる
→自発呼吸がない場合においてはPCVと同じ換気様式になる。
→PSを設定しないとVALIを発生させる危険性がある。PSを設定することで呼吸仕事を有意に上昇させる
b. 利点
・自発呼吸を妨げない換気が可能である。
・酸素化の改善
・吸気圧や死腔の減少
・同調性が良く、鎮静薬を減らせたという報告もあるが、そうでないとする報告もある。
・ARDSに対する呼吸管理について、SIMVと比べ、BIPAPは酸素化と生存率を改善させた。
→自発呼吸を適切に保ちながら管理するという近年のトレンドから考えるとBIPAPは基本換気モードの一つとして有用である。
→Drager社のPCモードは全てBIPAP機構により制御され、どのモードであっても吸気相・呼気相のどの時点でも自発呼吸が可能になっている。
[APRV]
・時間サイクルによって、超短時間の低CPAP相を設定し、高CPAP相からの圧開放相を有するCPAPである。
・高PEEPによる静脈灌流の低下とCO2呼出障害が生じるため、圧開放相時に気道を大気圧に開放することで、呼気を生じさせ、これらの悪影響を相殺する。
a. 設定項目
高CPAPの圧、低CPAPの圧、高CPAP時間、低CPAP時間を設定する。
→設定項目自体はBIPAPと一緒だが、APRVでは低CPAP時間→圧開放時間と解釈される。
→高CPAP相と低CPAP相の切り替えは圧開放回数として解釈される。
→肺胞内圧の過剰な低下、つまり肺胞の虚脱を防ぐため、肺内からガス排出が持続している状態で圧開放時間を終了させることが重要。
→圧開放回数が増えると、気道内圧が低下し肺胞内圧が低下するため、高CPAPの圧を上げる必要がある。
→圧開放回数が減ると、逆のことが起きる。
・ 具体的な設定値
① 高CPAP圧
・APRVを導入する前に使用していた換気モードでの平均気道内圧よりも2-3cmH2O高い値を目安とする。だいたい25-30cmH2Oくらい。
・SpO2>92%で安定するまで漸増する。
・APRVによる酸素化改善には数時間を要する。
・酸素化の改善がみられればFiO2は漸減する。
・改善がみられい場合には、固執せずにECMOへ移行する。
・自発呼吸の換気量が少ない場合にはPSで回路やチューブ分の呼吸努力サポートを行う。
(追記)
低CPAP圧は基本的には大気圧に設定(0cmH2O)
② 高CPAP時間(換気回数を規定する項目)
・初期設定は6-8秒程度
・PaCO2の値を目安に調節する
・ただし、肺胞内圧を維持する(虚脱を防ぐ)ためには換気回数(圧開放回数)が少ないほうがよいので、高CPAP時間の短縮は最小限にとどめる。
・換気量が足りない場合には自発呼吸を促し、換気量を保つ
(基本の原理は二相性CPAPなので、いつでも自発呼吸が可能)
③ 低CPAP時間
・最大呼気流速(Peak Expiratory Flow, PEF)の75%まで呼気流速が減少されたときに呼気相を終了するのが安定する。つまり、低CPAP時間は呼気流速が100%~75%までの時間に設定される。PEF%値を設定すると、呼吸ごとにその都度自動で低CPAP時間を算出してくれる機種もある。
・この際の一回換気量は、通常換気モードの容量と同等には扱わないため、6mL/kgなどの一回換気量に固執しなくてよい。APRVの設定で重要なのは一回換気量ではなく、あくまで肺胞の虚脱をふせぎシャント量を減らすことである。
b. 適応
[良い適応]
・APRVは低用量換気では対応できない急性呼吸不全が適応となる。
・なかでも良い適応は加重側肺虚脱のある急性期症例であり、肺胞虚脱を早期に開存させVALIを防ぐ
→通常換気モードを用いた低用量換気戦略で
1. FIO2<60%
2. プラトー圧<30cmH2O
3. SpO2>90%
のすべての条件を達成できない場合にはAPRVへの移行を検討する(自治医科大)
[悪い適応]
・換気血流不均等や拡散障害の病態に対しては陽圧換気の循環障害により酸素化が悪化すう可能性がある(肺胞低換気が良い適応)
・肺高血圧症や右心不全に対しては、胸腔内圧上昇による右心後負荷の増大が問題となる。
https://www.jspm.ne.jp/guidelines/respira/2011/pdf/02_02.pdf
c. 利点
・単施設RCTが2017年に行われ、ARDSに対するAPRVと肺保護換気の比較が行われた。肺保護換気のプロトコルは前述のとおり
→非人工換気時間、死亡率、コンプライアンス、酸素化、プラトー圧の低下、少ない鎮静薬など、すべてにおいてAPRVが優れていた
→APRVで12時間以上の管理を行うことで、肺リクルートメントがなされたため、リクルートメントマヌーバーを行う必要がなくなった。
・正常肺に対しても早期からAPRVを導入することで肺障害が軽減されるという報告がある
・ARDS発症前の外傷患者に対してAPRVの早期導入でARDSを予防できるという報告がある。
・ブタ敗血症モデルを使用した際、低用量換気群が5.6mL/kgの一回換気量であったのに対し、APRV群は2倍以上の換気量であったが、VALIを認めなかった。
→経肺圧は両群で同等であった。
→通常換気モードの一回換気量と同等に扱わなくてよい可能性がある。
・低用量換気群と比べ、少ない鎮静薬で管理することが可能であった。
・胸腔内圧が上昇し、静脈灌流が減少する可能性について懸念されるが、現状ではそれほど循環動態に影響を与えないとされており、過度に恐れる必要はない
d. APRVからの離脱
・APRVにより、一度肺胞の開存性と安全性が保たれれば、その後は高圧を用いなくても酸素化を維持することが可能
・むしろ高圧が肺過伸展のリスクとなるため、酸素化改善後はすみやかに高CPAP圧を低下させる。ただし、下げすぎて肺胞の再虚脱を招いてはいけない。
→再虚脱が起きない(酸素化の低下が起きない)ことを確認しながら、6-12時間ごとに2-3cmH2Oずつ慎重に下げていく
→高CPAP圧を下げると同時に、高CPAP時間を延長させ、再虚脱の可能性を低圧に曝される回数の減少により代償するというやり方がある。
→最終的には、圧開放回数を減少させ、二相性CPAPの管理を単純な一相性のCPAP(PEEP15-20cmH2O)に切り替えることを目標とする。
・治療中に圧開放相での呼出量が増加することをしばしば経験するが、これは気道粘膜浮腫の改善や、呼吸器メカニクスの改善を示唆する。
→前者では低CPAP時間が長くなりすぎないように調節し、後者では病態改善に伴って高CPAP圧を下げていく。
川良健二
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