「面白い話をします」
と、宣言してから笑いをとることのむずかしさは、
一度そういった無茶ブリを経験した人なら身に染みて分かるはずだ。
しかし、世の中には、
「笑いをとることが仕事です」
と、テレビや舞台に出てきて、笑いをかっさらっていく人たちがいる。
お笑い芸人だ。
そんな彼らの人間ドラマを描いた小説がこの「火花」。
あらすじが分かりやすいように、ここで、本の帯の言葉を引用する。
お笑い芸人の二人。奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。笑いの神髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。神谷は徳永に「俺の伝記を書け」と命令した。彼らの人生はどう変転していくのか。人間存在の根本を見つめる真摯な筆致が感動を呼ぶ!
まずお笑い芸人2人が主な登場人物ということで、
彼らの会話が面白い。
クスッとしてしまう。
ピース又吉の持ち味が出ている。
逆に言えば、小説の中のキャラはその小説の筆者を越えられないのかも知れない。
そうだとすると、小説家とはなんと才能を要する職業だろうか。
以下、ネタバレを含みながら、この小説を紹介したい。
小説の序盤は、
破天荒なお笑い芸人の先輩神谷のお笑い論が炸裂し、後輩徳永だけでなく、読者の僕たちも聞き入ってしまう。
そして神谷の型破りな行動や発言に、弟子入りした徳永だけでなく、僕たちも魅せられていく。
しかし、自身の感じる「面白さ」だけを行動指針として生きる神谷は、理解されなかったり敵を作ったりすることも多く、なかなか成功しない。
2人を印象付けるワンシーンがある。
ベビーカーに乗った泣き喚く赤ちゃんを、神谷と徳永がなだめようとするシーンである。
神谷は、いきなり「蠅川柳」という謎の川柳を五七五で詠いあげる。
「尼さんの右目に止まる蠅二匹」
「僕は蠅きみはコオロギあれは海」
「蠅共の対極にいるパリジェンヌ」
しかし、当たり前のように赤ちゃんは泣きやまない。
徳永は、咄嗟に「いないいないばぁ」で赤ちゃんをなだめようとするも、赤ちゃんは泣きやまない。
その上、後であの「いないいないばぁ」はクソつまらなかったな、と神谷に叱られる。
数年が経ち、徳永は深夜の人気ネタ番組に出るまでになっていた。
ある日、その番組を一緒にみた神谷が、「もっと好きなように面白いことをやったらいい」と口にする。
そこで、徳永はぶち切れてしまう。
「自分は神谷さんのように、徹底的な異端になりきれない。『いないいないばぁ』を知ってしまった僕はそれを全力でやりきるしかない。それすらも否定できる神谷さんは尊いけれど、その分悔しくて憎い」と。
そこで徳永は、神谷さんの教えである「道なんて踏み外すためにある」という言葉を実践することを決意する。
そう、
今まで背中を見て歩いてきた「神谷さんの歩む道」を、である。
その日から2人は会うことなく数年が経ち、徳永のコンビ「スパークス」は解散を決める。
その解散ライブでの「スパークスの漫才」が、個人的にはこの小説のクライマックスだ。
そして、この一番大事なシーンだけは、描写しないでおく。
その盛り上がりを実際に小説を読んで体感していただきたいからだ。
2時間ほどで気軽に読めるので、おすすめです。
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