タイトル
“Association of public health interventions with the epidemiology of the COVID-19 outbreak in Wuhan, China.”
Pan, An, et al. Jama (2020).
原文はこちら
※オープンアクセスの論文のため、一部原著の図表を提示しています
論文を一言でいうと
中国武漢でCOVID-19の流行を抑えるために施行された、
公衆衛生学的介入(交通規制やソーシャルディスタンスなど)は、
時系列としては有効だった可能性が示唆され、
今後の他の国での政策の参考になるだろう
目的
中国武漢でのCOVID-19の流行に関して、大きな出来事や介入をもとに5つの期間に分けて、公衆衛生学的な介入を評価する
方法
・2019/12/8-2020/3/8の期間で、COVID-19の診断となった32,583名のデータから、年齢・居住地・職業・重症度などの情報を収集するコホート研究。
・COVID-19の診断はRT-PCRで確定した患者のみとした(流行のピーク時に臨床診断していた症例は対象としない)
・COVID-19と公衆衛生学的な介入との関係性を見るために、5つの期間に分けた。
[原著より引用]
5つの期間の分け方
- 2020/1/9まで:大量の移動が始まる中国の旧正月の初日まで
- 2020/1/10-22:旧正月の大移動があったが、特に何の制限もなかった期間
- 2020/1/23-2/1:武漢での交通機関の閉鎖が始まり、マスク着用や人が集まるイベントが中止された期間。医療資源の不足が深刻で、適切な検査が受けられなかった。
- 2020/2/2-16:医療現場の状況が改善し、適切な検査と治療の方針が方針が出された期間。
- 2020/2/17以降:全ての居住者を対象に症状のスクリーニングが始まった期間
結果まとめ
患者の特徴
[原著より引用]
・32,583名のCOVID-19確定例のうち、15,766名(48.4%)が男性で16,817名(51.6%)が女性であった。
・年齢の中央値は56.7歳(四分位範囲 43.4-66.8)で、40-79歳の年齢層に24,203名(74.3%)が集まっていた。
・初期の頃ほど発症から検査での診断確定までの日数が長かった(5つの期間ごとに、中央値でそれぞれ26日、15日、10日、6日、3日)
地理的な広がり
[原著より引用]
・アウトブレイクは都市部から始まり、徐々に郊外、そして田舎へと5つの期間を通じて広がっており、都市部で高い感染者数となっていた。
感染者数
[原著より引用]
・日々の検査確定例の報告数は、100万人当たり第1期で2.0人(95% CI 1.8-2.1人)、第2期で45.9人(95% CI 44.6-47.1人)、第3期で162.6人(95% CI 159.9-165.3人)、第4期で77.9人(95% CI 76.3-79.4人)、第5期で17.2人(95% CI 16.6-17.8人)と推移した。
・医療従事者の検査確定例の報告数は、全期間を計算して100万人当たり130.5人(95% CI 123.9-137.2人)と、全体(41.5人/100万人 [95% CI 41.0-41.9])と比べて多かった
重症度
・多変量調節後の、致命的となるリスク比 (95% CI)は、20歳以下で0.47 (0.31-0.70)、20-39歳で1.00 (reference)、40-59歳で1.41 (1.30-1.53)、60-79歳で2.33 (2.16-2.52)、80歳以上で3.61 (3.31-3.95)と高齢であるほど高かった。
・女性は男性に比べ、重症化のリスクが低かった(adjusted リスク比 0.90 [95% CI 0.86-0.93])。
実効再生産数
[原著より引用]
・実効再生産数 Rt は、その時点での1人の感染者からの平均二次感染者数と定義され、SARS-CoV-2の感染の指標として2020/1/1から計算された。
・Rtは、第1期ではまだ計算上のばらつきがあるが第2期には増加していき、1月24日にピーク3.82となってから、減少へ転じた。2月6日に1を切り、3月1日には0.3となった。
Limitation
・中国政府が複数の政策を同時or短期間に行ったため、各々の効果は評価できなかった。
・感染症報告システムによる臨床的な情報と結びついていないデータを用いた。
・診断での検査の使い方や無症候性の感染に関するデータがない。
結論
・中国武漢での一連の公衆衛生学的な介入は、時系列的にはCOVID-19の感染制御の改善に関係していたように見え、他の国や地域での参考となるだろう。
次郎作の感想
・ただし、緊急事態であり当然と言えば当然ですが「公衆衛生学的なアプローチの効果」としては時系列でしか示せておらず、どの介入・政策がよかったかという因果関係に関しては不明瞭のままです。
・今後、各国の公衆衛生学的介入の結果に関する論文が集積されれば、どういった対策をするのが良いのか、見えてくるかもしれませんね。